若年層の就職難は自己責任でなく構造問題、セーフティネットの充実を
安全網は正社員が前提 職業能力の基準化を
これまで若者は「自立が求められ、セーフティネットの対象になっていなかった」(本田由紀・東京大学大学院教授)。雇用保険は1年以上の長期雇用が前提で(09年通常国会で改正される見通しだが、それでも6カ月以上)、事実上、正規労働者を対象に設計されている。生活保護も、その前提として可能なかぎりの自助努力を求める補足性原則が適用されるため、若者には適用されにくい現実がある。
首都圏青年ユニオンでは08年11月から、一つの取り組みを開始した。組合員に対する無料の簿記講座だ。「非正規で働く若者は、これまで何のトレーニングも受けていないケースが多い。このままでは次の展開がまったく見えない」(河添書記長)。
厚生労働省の公共職業安定所、ハローワークを通じても、簿記やパソコン講座などを無料で受講することができる。しかし、その間の生活給付がないため、なかなか活用が進まない。英国では低所得者への社会保障給付が充実しており、職業訓練を受けている期間も給付を受けられる。逆に職業訓練を受けないと給付をもらえなくなる。日本も、最低限のセーフティネットを職業訓練と組み合わせる形で充実させていくべきだろう。
労働市場の「正規・非正規の二重構造」にメスを入れる必要性もある。
日本企業は新卒採用で多くの労働力を確保する。学校卒業時に就職に失敗すると、その後も正社員になれないケースが多い。その代表が「失われた10年」に就職活動をしたロストジェネレーションだ。卒業時の景気動向によって、不公平が生まれやすい。
そもそも日本の新卒中心採用は、世界ではまれな制度だ。しかも当初から日本で新卒採用が中心だったわけではない。「新卒採用が主流となったのは、人手不足が顕在化した高度成長期以降」(山田久・日本総研調査部主席研究員)。それ以前は、大規模製造業を中心に中途採用も多かった。
企業が中途採用を行いやすくするためには、各人の職業能力を測るための物差しを、可能なかぎり社会で共有する必要がある。英国では国家認定職業資格(NVQ)があり、さまざまな職務についての資格が定められ、中途採用時のスキルが見えやすくなっている。
日本でも、研修を受けたフリーターなどの職業能力を証明し、就職の際に役立てようとする「ジョブカード制度」が08年4月に導入された。だが、現状、ほとんど利用されていない。職業能力を測る共通した基準が労働市場にないからだ。こうした基準を充実させることにより、現在の日本企業もかつてのように、非正社員から正社員への採用を増やしていくことができるのではないか。
労働市場の根本を直視し、セーフティネットの充実、職業能力の基準化、中途採用の拡充などを進めていかなければ、今の日本の若者問題は解決しない。問題を構造的にとらえ、それを社会化する。その姿勢を持つことが、解決の第一歩となる。
(週刊東洋経済)
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