「悪い退職」とは何かと言えば、「この会社にはもう我慢できない」と一方的に退職の意思を突き付けられたような状態だ。前述とは真逆の、とにかく今の会社に悪い印象しかなく、自分が活き活きと働いている未来を描けなくなったがゆえの退職だ。
優秀な社員にこのような気持ちで突然辞められるのは大きなリスクがある。なぜなら、パフォーマンスの高い人材が抜けることは組織の業績に痛手になるだけでなく、そのしわ寄せを残った社員が被ることになるからだ。
そして突然の優秀人材の流出は、悪夢の始まりにすぎないことが多い。優秀な人は市場価値も高く、転職先を見つけるのも比較的容易だからだ。エースが抜けたことで、次々と優秀な人材が芋づる式に流出するケースも珍しくない。こうなると組織として崩壊するだけではなく、マネジメント層そのものへの抜本的なテコ入れが必要となってくる。
危険なのは「何とかなる状態」だ
危険なのは、エース級が抜けても何とかなってしまう状態だ。辞めた個人の問題だった、採用時のミスマッチだった、と端的な結論を出すことで、人材流出の根本原因が認識されずに組織が少しずつむしばまれていく。気づいたときには完全に機能不全に陥っているのだ。
このように、「悪い退職」は深刻な危機の引き金になる場合がある。しかし、マネジメント側からすると、パフォーマンスを発揮できない社員ならいざ知らず、優秀な社員がある日突然退職するのは不可解に思えるかもしれない。「会社も仕事ぶりを評価しているし、将来は組織を牽引する存在になると期待をかけたのに、なぜ?」と。
では、「悪い退職」を起こさないために、日頃からどのような点に注意してメンバーと接するべきだろうか。
部下の退職の兆候を上司がつかめていないということは、相互理解ができておらず、信頼関係が構築できていない可能性が高い。部下がやりたいと思っている仕事、目指す方向性をざっくばらんに開示できる「心理的に安全」な状況を作り出す努力をしているだろうか。また、メンバー側は「どうせ言っても聞いてもらえない」と、声を上げるチャレンジもせずにダンマリを決め込んでいないだろうか。
「定例ミーティングを設定して話す機会を作っていたが効果がなかった」という読者もいるかと思う。ここで大切なのは、形骸化した定例ミーティングの実施ではなく、その「会話の質」であるのは言うまでもない。部下が発する「悪い退職」のサインを捉えられるかは、相互に歩み寄る質の高いコミュニケーションが取れているかにかかっている。
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