新潟の秘境で「1泊3万円」でも超人気な宿の秘密 3億円超を投じ廃業寸前の旅館を再生させた

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2014年5月にグランドオープンした里山十帖だが、強烈なコンセプトが話題を呼び、開業からわずか3カ月で稼働率9割超を達成した。その後も客足は衰えていない。周辺のスキーリゾートが閑散とする夏場でも予約でいっぱいだ。「体感するメディア」というコンセプトは、2014年度に宿泊施設として初めてグッドデザイン賞ベスト100にも選出された。

1泊あたり3万円前後という値付けも、「まっとうな値段。むしろ、これまで旅館は価格競争に陥るあまり、安すぎていた」(岩佐氏)。宿のコンセプトに共感できる宿泊客のみに訴求できればいい、と広告宣伝はなし。価格比較サイトにもほとんど掲載していないが、9割は里山十帖のホームページから直接申し込みがきている。

腰を据えて地元を観察する

岩佐氏を含め、自遊人は南魚沼市の人々から見れば「よそ者」だ。時に閉鎖的とも言われる地方だが、事業を実現させるには腰を据えて地元と向かい合う姿勢が欠かせない。むろん里山十帖の隆盛を支えるのは、独自の発想力だけではない。

自遊人が旅館の買収を打診されたのは、自遊人が南魚沼市に本社移転してから9年目のことだった。「旅館を譲ってもいいということは、地元から信頼されている証拠。だからその期待に応えたかった」(岩佐氏)。それでも、買収当初は「変な人のたまり場にならないか」と不安の声が上がったほどだという。

山菜の盛り合わせ。春夏秋冬それぞれの時期に採った山菜が並ぶ(記者撮影)

岩佐氏は地元に溶け込み、信頼を得ていくことの重要性を指摘する。「いきなり地方に乗り込んでは、『地元のコンセンサスが取れず事業が進まない』と嘆く人がいるが、それは当たり前。少なくとも最初の3年間はじっと息を潜めて、地元を観察することが大事」。

里山十帖へは地域外からの観光客だけでなく、地元住民も訪れる。取材当日の昼、里山十帖では地元の農家に料理を振る舞っていた。農家からは「自分が作った野菜がこんな形で出てくるとは」と驚きの感想が上がっていたという。栽培者としての矜持をくすぐるだけでなく、地元との交流拠点にもなっている。

地域活性化は一朝一夕にはできない。厳しい環境下でも事業を生み出す発想力と根気強さが必要だ。

『週刊東洋経済』2月23日号(2月18日発売)の特集は「地方反撃」です。
一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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