「カメ止め」大ヒットしても超謙虚な監督の流儀 大切なのはプライドよりも「作品の面白さ」
「現実が夢を追い抜いていくというか。毎日が目まぐるしかったですね」
映画『カメラを止めるな!』(以下、『カメ止め』)を生み出した上田慎一郎監督は、そう静かに笑う。製作費300万円でつくられ、当初の公開映画館が2館だった低予算映画は、社会現象とも言える大フィーバーを巻き起こした。興行収入30億円超、観客動員数200万人、公開200日突破、累計の上映決定館数は350館以上など、日本映画史に残る金字塔を数多く打ち立てた。
「何百館突破、何億円突破と言われても、実感が湧きづらいじゃないですか。できるだけ舞台あいさつに足を運び、実際に劇場へ行ってお客さんのリアクションや熱量を感じ取ることを大切にしていました。じゃないと、勘違いしてしまいそうで」
無名監督が、空前の大ヒットを記録する。“映画界のシンデレラストーリー”などと言われるが、浮足立った様子はない。むしろ、“ド”がつくほど誠実な考え方が、印象的ですらある。
上田慎一郎が、『カメ止め』現象の中で見つけたものとは何か? 「こういう年だったと振り返れるほど、まだ区切りをつけられていないんですよね」と頭をかきつつ、改めて激動の2018年と、これからの展望について語ってもらった――。
迷っていることがあれば素直に聞く
「単純に家族と過ごす時間がものすごく減ってしまったことは、歯がゆかったです。1歳10カ月になる子どもの成長を見届けたいけど、なかなかできない。今までにないような体験をさせていただいたことで、新鮮なインプットもたくさんあった反面、家族のありがたさを再確認した1年でもありました……。子育てに追われる妻の機嫌を、いかにして損ねないか学べたことも大きかった(笑)」
ジェットコースターのような日々。家族の存在が、大きな安堵感をもたらしてくれた。妻であるふくだみゆき氏は、同じく映画監督ということもあり、公私にわたるパートナーだと話す。ともに創作活動をする機会も多く、 『カメラを止めるな!』のシナリオを作る際も、妻に助言を仰いだという。
「僕が子どもを見ているうちに、妻が創作をするといったこともあったのですが、去年は妻にフォローし続けてもらう日々が続きました。家族との時間を優先したいけど、贅沢な悩みということもわかっている。正直なところ、どうバランスを取るべきなのか、いまだにわからないんですよね」
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