イタリアとフランスの大げんかの理由と行方 「大使召還」、世界大戦後で前例のない事態に
移民問題については、地中海ルートをたどって入国しようとする移民をイタリア政府が退けていることを、フランスが批判していた。だが、フランスが自国がまったく受けられないにもかかわらずそのようなスタンスを取ることに、イタリアは不満を抱いてきた。実際、フランスはイタリアに移民を送還するという運営をしてきた経緯もある。
また、2018年第4四半期にはイタリア政府が新年度予算編成をめぐって欧州委員会と衝突したことが記憶に新しいが、昨年11月、イタリア政府に対し「合意が成立しないならばイタリアに制裁を科す」と強い態度に出ていたのがフランス人で経済・財務・税制担当のモスコビシ欧州委員であった。もちろん、経済・財務・税制担当の欧州委員は加盟国の予算審査を担うポジションであるため、これはEU官僚として原理原則に則った言動をしただけである。
だが、問題はその後の展開であった。12月に入ると、母国フランスにおいて反体制デモが激化、これを鎮静化するために燃料税増税の凍結や最低賃金の引き上げ、残業代の非課税などが決定されるという事態に陥った。その結果、2019年のフランスの財政赤字・対GDP比は当初見込みのマイナス2.8%からマイナス3.2%へ拡大することになった。
マイナス3.2%の根拠は、12月に、フィリップ仏首相が仏メディアとのインタビューで「マイナス3.2%に抑えたい」と語ったことに由来している。周知の通り、EUにおける安定成長協定(SGP)の天井は「GDP比でマイナス3.0%」である。事態を客観的に評価すれば、「フランスは民衆が暴れた結果、民主主義で選んだ議会の財政政策を歪め、EUルールに違反した」ということである。
イタリアの胸中は「ポピュリストはどっちだ」
この点について、イタリアの財政運営を批判してきたモスコビシ欧州委員はフランス上院議会の欧州問題委員会で「欧州のルールは、3%ルールについて、一時的で限定的な逸脱を禁じていない」と発言し、容認する姿勢を示した。
現在得られる情報を元にすれば、財政赤字の対GDP比はフランスの2018年は2.6%、19年が3.2%の見込みであり、イタリアのそれは2018年は2.5%、19年が2.0%の見込みで、イタリアよりもフランスのほうが悪くなりそうである。もちろん、財政収支の基調を律する構造的財政収支や政府債務残高といった尺度で見ればフランスとイタリアは大分違って、イタリアのほうが劣悪なのが事実である。
だが、一貫して欧州委員会から厳しい態度で当たられてきたイタリア政府からすればダブルスタンダード、えこひいき、自国優先といった姿勢に映るだろう。ポピュリスト政権とはいえども、民主的に選ばれた政府が編成した予算を欧州委員会に拒絶されたイタリアからすれば、「民衆が暴れた結果、財政赤字を拡大したフランスが許されて、なぜ自分たちはダメなのか」という思いはあるだろう。「ポピュリストはどっちだ」である。
こうした財政運営をめぐるつば迫り合いも、イタリアの態度の背景にあると筆者は見る。
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