スズキがインドで今後も圧倒的に独走する根拠 成長市場で存在感を発揮すべく攻勢をかける
つまりインド政府は、大気汚染問題の解決手段をハイブリッドで固めたと、少なくともスズキは受け止めていることになる。実はスズキはかねて、インドの主力をハイブリッドだと見定めて手を打ってきている。それがようやくインドの政策当局に理解されたということになる。
一般的にEVにはトランスミッションが要らない。ところがスズキはインドでトランスミッション工場の強化にずっと力を入れてきたのだ。それはインドのクルマが速やかにEVに移行することはないという読みを意味する。2014年春から、インド・ハリヤナ州の現地子会社であるマルチ・スズキの工場で、オートメーテッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)の生産を開始した。AMTとはごく普通の5段MTのシフトフォークを電動アクチュエーターで駆動するもの。つまり人間の代わりにクラッチとシフトレバーをアクチュエーターが操作するタイプの自動変速機だ。スズキの商品名では「オートギヤシフト(AGS)」となる。
インド適合のための改良
AMTは、基本機構がマニュアル変速機であるため、無段変速機や自動変速機と比べて伝達効率に優れており、価格が安いうえに、故障しにくく、修理に高度な設備や技術を必要としない。そして、MT、AMT、マイルドハイブリッド、ストロングハイブリッドのすべてに同じトランスミッション本体を使える。
MTに電動アクチュエーターを付ければAMT、エンジンにもともと付いているジェネレーターにモーター機能(Integrated Starter Generator:ISG)を加えて、駆動用の小型バッテリーを搭載すればマイルドハイブリッド、そしてAMTのトランスミッションに駆動モーターをボルトで後付け追加して大型バッテリーを積めばストロングハイブリッドという具合に、コンポーネントの追加でいかようにも発展できるシステムを開発したのだ。
インドへの適合を考えると、スズキがS–エネチャージと呼ぶマイルドハイブリッドシステムはこの種のシステムとしては安価なところが評価できるだろう。国内モデルと比べようとしても装備差があってシステムのみを比較できないが、他装備のオプション価格を引いていくとおおむね10万円前後の差になっているように思う。
インドでのAセグメントは70万~80万円がエントリー価格帯なので、そこに10万円のアドオンは大きなインパクトではあるが、国内向けにリチウムイオン電池を採用している部分をダウングレードするなど手の打ちようはあるはずだ。
そしてインドも以前のようにAセグメント一本槍のマーケットではなくなりつつある。実際バレーノは、スズキがインド攻略のために専用開発したモデルで、インドの税制に合わせて全長を4m以下に収めつつ、本革シートなどの豪華な装備を施したステップアップモデルで、スズキを卒業して他ブランドに乗り換えるユーザーを引き留めるための戦略商品だ。そういう意味では中国で多くのユーザーを卒業させてしまった苦い経験がここで役立っているとも言える。
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