危機の病名は「マネー凍結」 中央銀行の正常化に道筋を--田中直毅・国際公共政策研究センター理事長、経済評論家
大恐慌以来という歴史的な金融・経済危機に直面し、各国が金融・財政両面からの異例の政策発動を続けている。われわれは危機の実態と本質をどうとらえるべきか、この非常事態はいつまで続くのか。現場主義で経済を分析し、政策を論じ続けてきた田中直毅氏に聞いた。
--世界同時不況、同時デフレが深刻化しようとしています。
足元で起きていることの分析に多少混乱が見られると、私は思っている。世界大不況といった見方があちこちでされている。しかし猛烈な冷え込みが起きていることは事実としても、それをただ「不況」と言ったのでは処方箋を誤る。正確に言えば、「マネーが止まった」ということだ。
マネーが止まるということは、金融機関の相互信頼性が失われる局面では、金融機関といえどもリファイナンスを受けられないということを意味する。
わが国は家計の金融資産の5割以上が現預金であるなど、たまたまキャッシュリッチであり、現在のような「キャッシュ・イズ・キング(現金こそ王様)」と言われる状態においては比較的影響は小さい。
一方で海外の特に大手の金融機関は、預金量によって貸出量を決めるというよりは、貸出資産や投資有価証券保有に見合った負債を構成するため、預金以外の大口の資金を受け入れてきた。そういう状況では当然のことながら、(外部からの調達資金が)リファイナンスされないと、貸出金や有価証券などの資産サイドを維持できなくなる。その結果、貸出金が減少に転じたり、有価証券の大量処分に迫られる。それが今の実態だ。
事業会社としても、銀行にはカネがないため、自分でマネーをひねり出さなければ存続が危ういという状況に追い込まれている。このために、投資は止める、在庫はたたき売る、売掛金の回収に回る、といった、ありとあらゆる手段を投入し始めている。そういう中で、あたかも通常の大不況がやってきたかのように喧伝される。確かに減産が起きるわけだし、原材料在庫の積み上げを図る企業はなくなり、海運ではバラ積み船で運ぶ鉄鉱石も原料炭もなくなった。これらは不況でも起こることだが、本来、不況というのは2~3カ月の間に急速に来たりはしない。マネーが止まったのだ。それが2008年10月以降、観察されているところだ。
結果として、証券化商品の値付けは厳しいことになっている。サブプライムローンを組み込んだ住宅抵当証券はもちろん、(比較的優良な)プライムローンを組み込んでいても新たな買い手が現れないため、そうした合成債務担保証券の価格は下がってしまう。こうした証券に投資してきたファンドもファイナンスができないという状態が生まれてしまった。
これを通常の不況だと言ったのでは処方箋が違ってくる。現在の財政支出を大幅に拡大すればいいという議論は、世界大不況がやってきたことを前提とした処方箋だが、実際にはマネーが止まったという資金凍結をどうやってほぐすのか、に焦点を当てるべきだと私は考えている。そういう意味では、今後発足するオバマ政権においてもこの問題が十分把握されているかどうか、私には多少の心配はある。