危機の病名は「マネー凍結」 中央銀行の正常化に道筋を--田中直毅・国際公共政策研究センター理事長、経済評論家

平土間から舞台に戻れるか オバマ新政権の出方次第

ただ現実には資金の凍結がここまで進んだため、米連邦準備制度理事会(FRB)は舞台から平土間に降りてきて、他の民間金融機関と横並びで客引きを始めた。本来の中央銀行制度は「銀行の中の銀行」で、金融機関に対する最後の貸し手として存在するが、今やFRBは中小企業のためのクレジットを出したり、CP(コマーシャルペーパー)を発行する事業会社からCPを直接買い取ったりしている。本来なら民間の投資家や金融機関が行う業務を中央銀行がやっているわけだから、投資家としては、こんな異常な状況下では、うかつに有価証券保有はできないと、買いを手控える状態が続いている。12月に入っても、少し前までトリプルAの格付けを得ていた合成債務担保証券は、額面に対してだいたい40~50%前後の値段で、若干の取引事例がある程度。逆に言えば、キャッシュの付加価値率が2倍という異常値が観察されている。

結果として、FRBは、MMMFの購入やAIGへの特別融資、住宅抵当証券の購入などを含め、1年前と比べ資産を2・36倍(12月初め現在)に大膨張させた。今後さらに3倍以上へと増えるのが必至だ。しかも通常の買い戻し条件付きとは違い、買い切りである。欧州中央銀行もリーマン・ブラザーズ破綻直前から11月末までの2カ月半の間にユーロ圏での外貨貸し、ユーロ圏の金融機関への与信量拡大を通じ、資産規模を36%も急拡大させた。

こうした状況を「世界大不況」と診断するのはおかしい。臨床医が急性期で日々症状が変わるような患者に対して、慢性病の診断をしているようなものだ。病名が違えば処方箋も誤る。死体解剖をすれば誤診になる。今回のマネー凍結という事態は、臨床医としてのエコノミストに対しても、厳しい自己診断能力を問いかけている。

--そうした異常な状態はいつまで続くのでしょうか。

金融当局は本来なら舞台で見栄を切っていればよかったが、やむにやまれず平土間に降りた。桟敷の間を民間と一緒に行き来しているわけだから、もはやいつ舞台に戻れるのかが問題だ。投資家は中央銀行がもう一度舞台に戻らないかぎりは、恐ろしくて投資できない。これはマネーが止まった事態が持続することを意味する。中央銀行はどうしても舞台に戻る算段をつけなければならないが、その戻る算段がいまだついていないというのが現状だ。

今後、FRBが舞台に戻る際にはCPもMMMFも証券化商品もマーケットに売る。そうして資産規模を縮め、銀行とのみ取引する平時の状況に戻らなければならない。資産の処分の際には損失が発生しようが、最終的には納税者が負担するしかない。そこまでに、どんなスピードで戻るのか。急激に戻ろうとすれば損失は大きい。逆に納税者の犠牲をなるべく小さくしようとすれば、投資家の信認はなかなか戻らず、資金が凍結した状態が長く続く。投資家が戻らなければ、マーケットの底値感も出てこない。こうしたバランスをどうとるのか。09年1月20日の新政権発足以降、オバマ新大統領やガイトナー次期財務長官ら経済の政策担当責任者の出方によってその道筋が決まってくる。

マネーが止まった状況に早く終止符を打つことが今求められる最良の処方箋であり、問題の本質だ。それには納税者の大きな負担が発生するため、それを決めた人にはアカウンタビリティ(説明責任)が求められる。納税者の反発もあろうが、私はそれをやるべきだと思う。

たなか・なおき
1945年9月生まれ。68年東大法卒。73年 東大大学院経済学研究科修士課程修了。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始め、現在に至る。97年 21世紀政策研究所理事長。2007年 国際公共政策研究センター理事長。

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