スパイク・リー監督が新作映画に込めた狙い 「笑える映画」でも人種差別問題鋭く切り込む
その作品の監督を務めたジョーダン・ピールは1979年生まれで、スパイク・リー監督の影響を受けて育ってきた世代。彼は『ブラック・クランズマン』にもプロデューサーとして参加している。「この作品はスパイクの作品とかなり似ていると思った」とリー監督にオファーを出した理由を語るピールが、出したリクエストは1つだけ。「笑える作品にしてくれ」ということだった。
脚本を担当したケヴィン・ウィルモットは「よく考えてみたら、ロンがKKKに潜入できたころから笑えてくる。ストーリーを語るうえでそういうおかしさというか、バカバカしさをすべて出したいと思った」と振り返る。その言葉通り、本作は非常にユーモラスだ。だからこそ、そのテーマが心に深く突き刺さる。
この作品では、かつてKKKの最高幹部だったデビッド・デュークも登場する。彼を演じた俳優のトファー・グレイスは、役作りのためにデュークの映像を見続けたという。その日々を「最低な1カ月間だった」と笑いながらも、1980年代に彼が出演するトークショーの映像を見て気づいたことがあった。
「現代のアメリカ社会を連想させる」意図も
「彼が何度も繰り返し使っているフレーズがあることに気づいた。“アメリカ・ファースト”“アメリカ・グレート・アゲイン”。それを聞いてものすごく驚いたんだ。そのフレーズを僕が初めて聞いたのは数年前の選挙の時だったんだからね」(トファー・グレイス)。実際、デビッド・デュークはアメリカのトランプ大統領が掲げた“アメリカ・ファースト”という言葉を聞いたときに、「あの言葉は俺が元祖だ」と言っていたという。
「現在のアメリカは善い人と悪い人との感覚を失いかけているように感じる」と語るプロデューサーのジョーダン・ピールは、「この映画は、人種差別や白人至上主義の思想の盛り上がりが再燃するアメリカで、一人ひとりの道徳的な指針をリセットする役割を担っている」と強調する。
そして「これはどこか、現代を連想させる作品にしなくちゃいけない。観た人が、映画の中の狂った世界を、現代のぼくらが生きる世界とつなげて考えられるようにね」とするリー監督も、「この作品は、僕らが暮らす現代社会に対する実験なんだ。それから愛と憎しみの文化抗争に対する実験でもある。僕たちは成功することを祈るしかないよ」と語る。
この物語は1970年代のアメリカを描いているが、現代にもつながっている物語だ。それゆえに、現代のわれわれの心にも深く突き刺さってくる。
(文中一部敬称略)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら