スパイク・リー監督が新作映画に込めた狙い 「笑える映画」でも人種差別問題鋭く切り込む

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この荒唐無稽な、だがまぎれもない事実をもとにした物語のメガホンをとったのは、スパイク・リー監督。『マルコムX』『ドゥ・ザ・ライト・シング』など、黒人としてのアイデンティティーを前面に押し出した映画の数々で、トップ監督に躍り出た鬼才である。ニューヨーク・ヤンキースの帽子、ナイキのスニーカーという衣装に身を包み、CMなどにも登場する彼の姿は、映画監督としてだけでなく、ブラックカルチャーを象徴する存在にもなっている。

KKKへの捜査に挑む黒人刑事のロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン、右)だが、実際は電話越しだけでKKKに対峙する ©2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.

だが、2009年に日本公開された『セントアンナの奇跡』以降は、日本での映画公開は激減。アメリカでは、マイケル・ジャクソンのドキュメンタリー映画や、『Red Hook Summer(原題)』『Da Sweet Blood of Jesus(原題)』といった映画などをコンスタントに発表していたが、その中でも日本で劇場公開されたのは、日本のコミック原作、韓国映画のリメイク版となる『オールド・ボーイ』くらいだった(ネット配信では、Netflixで2017年に『ロドニー・キング』が配信されている)。

むしろ日本でその名前を聞くのは、“もの言う映画監督”としての面だったかもしれない。クエンティン・タランティーノ監督の西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』について、「黒人の祖先を冒涜している」と噛みついたり、第88回アカデミー賞の俳優部門にノミネートされた候補者が2年連続ですべて白人だったことから、「アカデミー賞」ボイコットを呼びかけたりしている。こうしたニュースが日本にも伝わっており、スパイク・リー監督らしさは変わらない、と感じた人もいたかと思う。

スパイク・リー監督らしさが前面に出た作品

それだけに今回の『ブラック・クランズマン』だけを見ると、「スパイク・リー完全復活!」と無邪気に言う人もいるかもしれない。しかし、そう言いたくなるくらいの面白さとパワーに満ちあふれている。

本作のプレミア上映が行われた、2018年の第71回カンヌ国際映画祭では、パルムドールを獲得した『万引き家族』、韓国のイ・チャンドン監督が村上春樹の短編を映画化した『バーニング』などと並び、高い評価を受けていた。そして最終的に、パルムドールに次ぐ審査員特別グランプリを獲得している。

もともとスパイク・リー監督は、1989年の『ドゥ・ザ・ライト・シング』が、カンヌ国際映画祭をきっかけに大きな注目を集めたこともあり、運命的なものを感じさせる。

ついでに言えば、主演を務めるジョン・デヴィッド・ワシントンは、リー監督の代表作『マルコムX』に主演したデンゼル・ワシントンの息子だ。幼少期に同作にも出演していたという縁もある。

本作の映画化権を獲得し、製作を務めたのは、黒人青年が白人のガールフレンドの実家を訪れた際の恐怖体験を表現した、大ヒット作品『ゲット・アウト』の製作チームだ。

次ページ笑える作品にしてくれ
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事