最低賃金を絶対「全国一律」にすべき根本理由 「地域別」に設定している国はわずか4カ国

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何度も繰り返していますが、人口が減少する以上、日本では生産性を向上させることが国家の死活問題となっています。しかし、現状の事業者の支払能力を前提に最低賃金を設定すれば、経営者を刺激することはできず、またしても彼らを「現状さえ維持できればいい」と勘違いさせることになりかねません。

それでは彼らの中に、生産性を向上させる意欲を生み出すことも、新しい技術を導入する動機を作り出すこともできません。結果、日本の最先端技術の普及を妨げることにもなるでしょう。特に、年齢の高い経営者を挑戦に駆り立てることは困難になるでしょう。

別の切り口からも、地方創生と都道府県別最低賃金の矛盾を指摘できます。

国全体で最低賃金の引き上げに挑戦することが決まって、全国の経営者がそれに向けて生産性を上げることに努力することとなったとします。

地方によっては、経営者たちが「私たちは参加しない、努力しない」と、自分の地域だけ最低賃金が上がらないようにゴネることも考えられます。そうなれば、努力した地方の生活水準が上がって、努力しない地域は衰退したままになります。

そのとき、努力しなかった経営者たちは、必ず「補助金を出してほしい」と言ってくるでしょう。これは、典型的な制度上のモラルハザードです。要するに、この制度のままでは、国策を無視することができて、生産性向上政策が全国津々浦々まで及ばない可能性が高くなるのです。

「低いほうに合わせる」は、やってはいけない愚策

今の日本の最低賃金の制度は、昭和の時代のままです。昭和のままの最低賃金の制度を放置すると、地方経済も昭和のまま置き去りになってしまい、若い世代はますます東京に集中してしまいます。

最低賃金を全国一律にし、さらに水準を引き上げて、全国津々浦々で生産性を向上させる挑戦は、日本にとっては初めての試みなので、期待通りの成果が上がらない可能性もないことはないでしょう。しかし、今までの制度のもとでは 、地方経済は確実に、そして深刻に衰退します。

繰り返しますが、地域別最低賃金制度は世界的に見ると稀な制度です。これを世界標準である全国一律に変えるのは、日本にとって非常に価値ある試みです。もちろん、今度とも地方創生のための支援は引き続き不可欠ですが、全国一律最低賃金によって地方に夢を与えるのは、大変重要で、かつ有効だと私は確信しています。

最後に、私は地方にこそ最低賃金の引き上げが必要と考えています。ですから、全国一律にする際、最低賃金が低い地域に合わせて帳尻を合わせることは許されません。東京の最低賃金を引き上げつつ、地方の引き上げ率をより大きくして、現状1.3倍にも拡大されてきた東京と地方のギャップを縮小させることに、大きな意味と価値があるのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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