最低賃金を絶対「全国一律」にすべき根本理由 「地域別」に設定している国はわずか4カ国
国が決めた全国一律の最低賃金を上回る水準で、各地方に独自の最低賃金を決めることを認めている国もあります。アメリカがその1つです。ニューヨークやカリフォルニアなどで、独自の最低賃金を設定しています。ほかにも、ロシアとブラジルが同じ制度を導入しています。
この制度を導入している国と、地域別最低賃金を設定している日本以外の3つの国には、1つ、決して無視してはいけない特徴があります。それは、国土が非常に広いということです。面積で見ると、ロシアが世界第1位、カナダが第2位、アメリカが第3位、中国が第4位、ブラジルが第5位、インドネシアが第15位です。それに対して、日本は世界第61位です。
国土が広いと、自分の住んでいるところより最低賃金が高い地域があっても、移動するには多くの障害をクリアしなくてはいけないので、労働者はそう簡単には移動しません。
「全国一律」にしたイギリスでは、失業は増えなかった
実は、この点が日本での最低賃金のあり方を考えるうえで、大変重要なのです。
地域別に最低賃金を設定した場合、交通の便がよく、移動が容易なほど、労働者は最低賃金の低い地域から高い地域に移動してしまう可能性が高くなります。最低賃金の低い地域からは、段々と人が減り、経済には大きな悪影響が生じ、衰退していくことになります。
前回の記事で、イギリスが1999年に最低賃金を導入したことはお伝えしました。このときのイギリスでも、最低賃金は地域別にするべきだという議論があったようですが、結局は「世界の常識」である全国一律最低賃金にしました。
イギリスで最低賃金を設定する際には、慎重のうえにも慎重に検討を重ねました。その結果、地方によって物価の違いがあるという事実はあえて無視しました。もちろん、最も賃金水準が低い地方に合わせて、最低賃金を低く設定することもしませんでした。物価と最低賃金導入以前の平均賃金が地域によって異なっていたにもかかわらず、全国一律の最低賃金を導入したのです。
その結果、最低賃金に合わせるための低所得者の所得の引き上げ率は、地方によって異なっていました。賃金水準の低いところでは、引き上げ率はかなり高い水準になりました。
前回も説明しましたように、「労働市場は完全に効率的に価格形成がされているので、最低賃金を上げると失業者が増える」という新古典派経済学の説は、実際の社会での実験の結果、否定されました。実際の事例に基づいて、「労働市場の価格形成はもっと複雑で、単純ではない」ということが海外の論文でも証明されています。
最低賃金は、引き上げ方次第で雇用にはほとんど影響しないことが注目されていますので、イギリスも全国一律最低賃金制度を導入したのです。
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