社長交代の東京海上、「脱・自動車保険」の難題 損保代理店の8割は自動車保険に5割超依存

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自然災害の頻発は、国内だけでなく世界規模での課題だ。東京海上グループとしてグローバル規模で保険事業を展開するのも、自然災害リスクを分散させる狙いがある。海外事業で新興国に目を向けるのも、欧米に偏在している地域リスクをより広域に分散させる意図もある。

もう1つの課題は、自動車保険依存からの脱却だろう。国内損保事業の収入保険料約2兆円の約6割は自動車保険と自賠責保険が占める。戦後のモータリゼーションの波に乗って、自動車保険の契約は積み上がってきた。しかし、近年は少子化や若者のクルマ離れ、シェアリングの普及などで自動車販売の伸びは見込めない。

さらに、被害軽減ブレーキなど安全運転支援機能が普及し、事故形態で最も多い追突事故が減っている。事故リスクが減ればそれに伴って保険料は低下する。「安全運転支援搭載車の普及が進めば、自動車保険料は今後10年で3割程度下がるだろう」と損害保険アナリストの大島道雄氏は指摘する。

自動車保険に依存する代理店

ただ交通事故が減るのは社会にとって望ましいことだ。実際、北沢氏は昨年、『週刊東洋経済』のインタビューに「自動車に新しいテクノロジーが導入されて、悲惨な事故が減っていくことは保険会社にとっていちばん大きな願いだ」と明言し、保険料が漸減してくことを否定していない。消費者や株主からも損保会社に対して、補償の提供だけでなく、事故防止や被害軽減を期待する声も多い。

今後の新たな収益源として考えられているのが新種保険と呼ばれる、ニューリスクに対応した保険商品だ。例えば、サイバー攻撃を受けた際の被害を補償する「サイバー保険」や、会社役員が訴えられた場合などに備える「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」など、東京海上日動は企業を取り巻くさまざまなリスクをカバーする商品の開発・販売に力を入れ始めている。認知症の人が起こした賠償責任リスクをカバーする専用商品なども昨年から販売している。

ただ、新種保険など新しいタイプの保険商品の販売には高いコンサルティング力が必要だ。保険専業のプロ代理店が会員の中心となっている日本損害保険代理業協会と野村総合研究所が約1万社を対象に行った2014年度の調査(2840社から回答、未回答903社を除く)では、代理店の自動車保険依存の現状が明らかになっている。自動車保険の収入保険料が、損害保険の売り上げ全体の5割以上を占める代理店は実に約8割にのぼる。自動車保険市場の縮小に備えるのは、それほど簡単ではない。

東京海上日動の新社長となる広瀬氏は2005年から2009年にかけて、代理店や顧客目線で商品・事務・システムを刷新する大プロジェクト「抜本改革」を実施した際に、抜本改革推進部長として陣頭指揮を執った。

「マザーマーケットである国内事業がしっかりしていないとグローバルグループとは言えない」。永野氏は会見でこう強調した。自然災害リスクや自動車保険市場の縮小など国内損保事業を取り巻く環境変化に対応しつつ、成長する海外や生保事業をさらに伸ばしていく。次期社長2人には難しい課題が突きつけられている。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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