乙武洋匡が見た「被害者と加害者」虐殺後の和解 多くの葛藤を経ながらも許し、許された関係

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サラビアナ:まず、今の国の指導者たちはすばらしいので、私たちはとてもいい状態にあると思っています。そして、タデヨさんも言っていたように教育です。やはり、若い世代にきちんとした教育をしていくことが重要だと思います。

奇しくも、3人からは「次世代」というキーワードが聞こえてきた。そして、その言葉を象徴するように、数年前にはサラビアナさんが“息子”と呼んで愛情を注いできたおいのオスカーさんとタデヨさんのめいがご結婚され、お子さんも生まれている。まさに、フツ族やツチ族、加害者と被害者という壁を越えていく喜ばしい出来事だ。

――最初におい・めいから結婚の話を聞かされたとき、お2人とも抵抗はなかったですか?

サラビアナ:もう和解した後だったので、とてもうれしく思いました。これでますます絆を深めることができるなと。

タデヨ:新しい種から、さらに世界が広がっていくような感覚でした。反対する理由は何もありません。

28歳のオスカーさんは、ジェノサイドが起こった当時はまだ4歳の少年だった。「次の世代」であるオスカーさんは、あの惨劇とどのように向き合っているのだろうか。

オスカー:もちろん、過去に起こってしまったことは悲しい出来事ですが、もう私たちの世代ではそういったことを繰り返すことはありません。

サラビアナさんが“息子”と呼ぶ、おいのオスカーさん。幼い頃からサラビアナさんと暮らしてきた

――結婚を上の世代に伝えるにあたって、反対されるかもしれないという不安はありませんでしたか?

オスカー:それはまったくありませんでした。悪いことをしているわけではありませんし、何より和解によってつながった絆が、私たちの結婚でより強いものになると思っていましたから。

小さな積み重ねを続けてゆく信念

もちろん、今回お話を聞かせていただいた3人の良好な関係性や、次世代による民族の壁を超えた結婚というよろこばしいニュースは、ルワンダ全土でジェノサイドが残した爪痕に苦しむ人々のなかにあって、ほんの一例にすぎない。

だが、佐々木氏とREACHはそんな「ほんの一例」を大切にして活動を続けてきた。時計の針は戻せない。そして、ジェノサイドによって傷ついた人々の心をひとたび回復させる魔法のような手段も存在しない。ならば、こうした小さな事例を積み重ねていくしかない。

すべての人を救うことは難しくとも、まずは目の前にいる人を救うことに全力を注ぐ。そんな信念で活動を続けてきたこのプロジェクトは、日本の国内外で社会問題の解決に取り組む人々にとっても大きなヒントとなるに違いない。

ルワンダの人々に少しでも笑顔が戻ることを願わずにはいられない
乙武 洋匡 作家

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おとたけ ひろただ / Hirotada Ototake

1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。杉並区立杉並第四小学校教諭などを経て、2013年に東京都教育委員に就任。著書に『だいじょうぶ3組』『だから、僕は学校へ行く!』『オトことば。』『オトタケ先生の3つの授業』など多数。

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