乙武洋匡が見た「被害者と加害者」虐殺後の和解 多くの葛藤を経ながらも許し、許された関係

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――その後、活動を通じて、サラビアナさんの家を建てるプロジェクトにも参加するようになりました。

タデヨ:家を建てる作業を通じて、彼女と会う回数も増えていきました。そのたび、彼女に対して「してしまったこと」の罪深さを感じるようになり、彼女に許しを求めなければならないという気持ちが大きくなっていったんです。

――2010年、サラビアナさんの家が完成したセレモニーの場で、タデヨさんは公式に謝罪をし、サラビアナさんの許しを得ました。そのことによる心境の変化はありましたか?

被害者であるサラビアナさんに真っ先に謝罪したタデヨさん

タデヨ:それまでは彼女に怖れを抱いていました。ワークショップに参加するときも彼女の家の近くを通らなくてすむように遠回りをして。でも、家を建てる作業を通じて、少しずつ彼女とも話ができるようになり、心を開くことができるようになっていきました。セレモニーの場で許しを得たことで、ようやくその恐れという感情が消えていったように思います。

――待ってください。サラビアナさんが加害者側であるタデヨさんに怖れを抱いていたというなら理解できるのですが、タデヨさんがサラビアナさんに怖れを抱いていたのですか?

タデヨ:ええ、そうなんです。それはとても言葉にするのが難しいのですが、私たちが彼女にしてしまったことに対する……恥とか羞恥心といった気持ちからくる感情だったと思うんです。

タデヨさんの思わぬ告白に、私はとても戸惑った。そんなにも恥ずべき行為ならば、なぜ罪を犯す前に自らを止めなかったのか。なぜ隣人に暴行を加えるという愚かな行為に加担してしまったのか。しかし、そうした疑問はアンドレさんに話を聞くうちに氷解していった。

「暴行に加わるしかなかった」

――アンドレさんは、サラビアナさんと幼なじみだったとか。

アンドレさんは仲間に指示され、幼なじみを攻撃した

アンドレ:昔から近所で、彼女とは年齢も近い。ジェノサイドが起こるまで、私たちの関係には何も問題がなかったんです。ところが、ああいうことが起こり、私も暴行に加わることになってしまった。しかし、そのときはどうしようもなかったんです。

――どうしようもなかった?

アンドレ:自分と同じ民族のグループがやってきて、彼女を攻撃することになった。もちろん、私は加わりたくなかったので最初は後ろで見ているだけだったのですが、やはり見ているだけというわけにもいかなくなって……。

アンドレさんの言葉は、自己弁護にも聞こえてしまう。だが、当時のジェノサイドは「加害者であるフツ族」と「被害者であるツチ族」という単純な構図で語られがちだが、じつは同じフツ族でもジェノサイドに積極的ではない穏健派が、多くの人々を煽動した過激派によって殺害されるという事態も起こっていた。もしもアンドレさんが「ただ見ているだけ」という態度を貫いていれば、今度はアンドレさん自身が被害者になっていた可能性も決して否定できないのだ。
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