「病院大淘汰」都心立地ですら安泰じゃない過酷 実需次第で再編すれば今の半分でも成り立つ

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社会保障費抑制の流れを受けて、医療サービスの価格(診療報酬)は伸びない。だが消費増税によって病院側のコスト負担は増えた。患者が支払う医療費には消費税がかからないが、薬剤費など病院が払うコストには消費税がかかるためだ。

追い打ちとなるのは、働き方改革関連法だ。医師への本格的な適用は2024年4月からだが、これまで青天井だった医師の時間外労働が是正されることになる。年々低下してきた利益率がさらに圧迫されると予想される。コスト削減や業務の効率化など生産性を上げる努力が急務である。

患者減少、医師不足…消耗戦の末共倒れに

2017年に民事再生法の適用申請に至った岐阜市の医療法人社団誠広会は、医師不足と患者数の激減が経営悪化の一因となった。この法人が運営する岐阜中央病院は、ピーク時の2008年は年間11万人だった患者数が6万人まで激減した。「最盛期は警備員が必要なほど駐車場が埋まっていたが、最後にはがら空きになった」と元職員は話す。

大学病院から派遣されていた医師が徐々に引き挙げられ、内科の医師は2人にまで減っていた。周囲の診療所から患者を紹介されても入院を受け付けられず、別の病院に紹介するという事態まで起こっていた。「残った常勤医師は70代。372床の病床数はとても回せない。いつまでもつかという状況だった」(元職員)。

現在は医療法人清光会に譲渡され、岐阜清流病院として再起を図っている。清光会理事長の名和隆英医師は、「急性期病院から回復期に移行する患者の受け皿となるように、リハビリ機能を強化している」と話す。名和医師は元大学病院の勤務医で、大学とのつながりが強い。医師の確保に尽力し、現在は徐々に患者が戻ってきているという。

日本は急病や重症患者に対応する急性期の病院が多い。地方都市では急性期の病院がひしめき合っているが、実際は患者数上位の5~6病院が大部分のシェアを占めている。中位以下の病院は現在のままの病院形態に固執すると生き残りが難しい。郊外ではすでに上位の病院でも患者数減少が始まっている。今後も消耗戦を続ければ、共倒れしかねない。

「命のために」という大義があっても、すべての病院は生き残れない。病院大淘汰の時代が迫ってきている。

『週刊東洋経済』2月9日号(2月4日発売)特集は「病院が消える」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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