アベマTVを支える「ゲーム」と「広告」の異変 サイバー藤田社長が語った17年ぶり下方修正

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高成長を続けてきたネット広告事業でも、異変が起きている。ネット広告事業の売上高はこれまで前期比10%後半~20%前後の成長率を維持してきたが、この第1四半期は前年同期比11.1%増にとどまった。今回、売上高を引き下げた分のうち約100億円はゲーム事業で、約200億円はネット広告事業だった。

「スマホゲームやFX、消費者金融、仮想通貨のような、ネット広告市場全体の数字を押し上げるような(広告主である)業種が今見当たらない」。ネット広告事業の伸び悩みについて、藤田氏はそう指摘する。

こうした中、藤田氏はコストの全面見直しを打ち出した。直近半年で約200人が入社するなど積極的だった中途採用は、昨年11月以降停止。「広告主ランキングに入るくらい高い」(藤田氏)というゲーム事業の広告宣伝も今後抑制する。

アベマTVの投資姿勢にも変化

さらに自身が陣頭指揮を執るアベマTVに関しても藤田氏は、「(コストに対する)意識は正直変わった」という。「投資計画は基本的に今までどおりだが、うまくいかない番組の中でも人間関係などでやめるきっかけを作れなかったものなど、“下方修正なので…”といった説明をするなどして、コスト面を見直す」(同)。

藤田社長の肝いりであるテレビ朝日と合弁のインターネットテレビ局「アベマTV」も、投資フェーズでありながら、コスト抑制の必要性が高まっている(撮影:今 祥雄)

アベマTV自体は、安定した成長を見せている。アプリダウンロード数は直近で3700万を突破、週間利用者数は700万~800万前後となった。2018年9月期はアベマTV単体で広告収入を中心に売上高63億円となり、今年度はその倍以上に増やす計画だ。今年はオリジナル番組の版権販売、海外への配信のほか、競輪などの公営ギャンブルの番組を制作し、投票券も買える仕組みを提供するなど、新たな取り組みを始める。「黒字化を急ぐわけではないが、マイナス幅(赤字幅)は減らしていきたい」(藤田氏)。

ただし、アベマTVへの多額の投資は、高収益のネット広告事業とゲーム事業が順調に稼ぐことが前提のもの。広告の鈍化に関して藤田氏は、「恒常的なものになるのか、短期的なものなのかは判断が難しい」としている。ゲーム事業を取り巻く環境も厳しい。中国や米国など海外勢が日本市場で拡大しているうえ、求められる質も上がり、開発費はかさむばかりだ。

今回の下方修正を受け、市場関係者からは「もっとコストの手綱を締めるべきではないか」との厳しい声も聞かれる。ネット広告代理業を起点とした多角化で成長してきたサイバーエージェント。アベマTVを飛躍させるための正念場は、まさに今ということだろう。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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