常識破りの「観光路面電車」は世界を驚かすか キャラそっくりの車両、5億円を投じて製造

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そんな子ども目線を前提としているため、通常は無味乾燥な座席下までキャラクターが描かれ、床面にはぜいたくな寄せ木細工が使われている。また、天井は電気鋳造による格天井となっており、それぞれの格子にはチャギントンのキャラクターが描かれている。水戸岡氏によると、子どもは実に目がよいので細かいところにも手を抜いていないのだそうだ。「本物」を体験させることが重要なのだという。

実はチャギントンのアニメには車内が描かれていない。それだけに、どのような車内とするかは、子どもがどんな遊び方をするかも含めて想像をめぐらせながら手探りで進めることとなった。予想以上に手間と時間を要する、しかし面白く楽しい案件だったと水戸岡氏はいう。

車両の製造費用は約5億円。設計のベースとなった電車「MOMO」はいま2編成在籍しているが、2本目の「MOMO2」が2億8000万円だったため、8割ほど製造費が高い。いかに思い切った投資かがわかろう。

岡山電気軌道の小嶋光信社長(両備グループ代表)はその点について、公共交通を利用することで「歩いて楽しいまちづくり」と「子どもの楽しいまちづくり」という2大テーマによる地域活性化に取り組む一環と位置付けていると説明する。チャギントン電車単体での利益を考えているわけではなく、この電車が走ることによる地域への注目度向上や集客効果を重要視しているといえるだろう。

路面電車の新たな方向性

運行開始は3月16日から。コースは岡山駅前発と、車庫のある東山発の2つがあり、平日は計4回、土休日は計5回運行する。定員は大人16人・子ども20人で、料金は大人3500円、子ども2000円(土日祝)。乗車時間約1時間でこの金額は一見割高な感じもするが、岡山電気軌道の1日乗車券と記念品、東山にある「おかでんミュージアム」の入館券(大人1000円、子ども500円)が付く。

応募多数の場合は抽選となるが、初回の3月16日~31日の運転日14日間の予約数は応募締切1週間前の時点で2000人超に達し、締切日には、申し込み代表者の数だけで1100人を超えたという。2~3人の子連れでの参加であろうから相当な数で、滑り出しは好調のようだ。公式ウェブサイトには「世界初!」「さあ!岡山へ行こう!」との文言が躍る。おかでんチャギントン電車は、路面電車ではこれまでなかったタイプの「観光電車」という新たな方向性を打ち出す車両として注目されそうだ。

伊藤 博康 鉄道フォーラム代表

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いとう ひろやす / Hiroyasu Ito

1958年愛知県生まれ。大学卒業後に10年間のサラリーマン生活を経て、パソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを立ち上げて代表取締役に就任。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退したため、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。鉄道写真の撮影や執筆なども行う。

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