演出は国ごとで変えるのか
——公演する国、または観客の国籍によって、演出は変えるのでしょうか?
日本でこれはよいと感じるまで作り上げたものは、ユニバーサルで通用すると考えています。これまでニューヨーク、ロンドン、東京、シンガポールなどで演出をしてきましたが、どの国でも同じようなところで笑いや歓声が起きます。もちろん、翻訳字幕の内容やそれが表示されるタイミングなどに多少の誤差はあるかもしれませんが、それはお客さん自身が補完してくれると思っています。
もちろん、細かなところで表現の違いを感じることはあります。たとえば、日本語で書かれた台本のト書きでは「暗闇から音楽が聞こえてくる」と書かれていても、意味が通じるかもしれません。しかしヨーロッパでは「ラジオから音楽が聞こえてくる」というように、原因と結果がはっきりとわかる表現の仕方に変わります。芝居を通じてこういう違いを知る中で、自分自身が豊かになっていくのを感じます。
——演出家とキャスト、スタッフの国籍が違う中で、最高の作品を作り出そうとしたとき、蜷川さんがいちばん大切にされていることは何ですか?
人です。たとえば以前、イギリスである劇を演出したときのことでした。キャストが2人で舞台に出てこなくてはいけない場面で、ひとりが舞台袖に待機しておらず、もうひとりだけが出てきて勝手に演技を始めたことがありました。そのとき私は「どうしてそうしたのか?」と聞いたのですが、そのキャストは「わからない」と答えました。日本人的な感覚かもしれませんが、「そのようなとき、普通なら待機していなかったもうひとりのキャストを探して始めるべきだ」と、そのキャストに言ったところ、彼は黙ってうつむくだけでした。これは小さな出来事かもしれませんが、責任感や人としてのあり方にかかわる問題です。そういうことをお互いに理解し合っていけることが大切です。
蜷川幸雄氏
プロフィール:1935年10月15日、埼玉県川口市生まれ。69年『真情あふるる軽薄さ』で演出家デビュー。以後日本を代表する演出家として国内外の現代劇から近松門左衛門、シェイクスピア、ギリシャ悲劇など幅広い作品を次々と世に送り出す。83年の『王女メディア』ギリシャ・ローマ公演を皮切りに、毎年海外公演を行い、その活動は広く海外でも注目され高い評価を得ている。
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