東京電力の「未来」は分割・破綻方式で開ける 先送り方式は限界。新スキームに移行するべき

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金融機関に打診している見直し案の焦点は、与信の扱いだ。特に、震災直後に実施した約2兆円の緊急融資をどうするか。この約2兆円の融資は期間3~10年の長期かつ無担保。その一部が来年春から返済期限を迎えるのだ。

6000億円を出したメインバンクの三井住友銀行をはじめ、緊急融資に応じた金融機関としては、できれば回収、最低でも債権の保全を図りたいのが本音だ。

これまでも金融機関は、期限を迎えた無担保融資の借り換えや追加与信を私募の一般担保付き電力債に切り替えることにより、債権保全を図ってきた。

一般担保付き電力債とは、他の債権者(被災者を含む)に優先して弁済を受けられる社債のこと。社会インフラへの投資を円滑にする目的で、電気事業法37条で電力会社に特別に認められたものだ。この1年で金融機関が引き受けた私募債は9月末で8156億円に及ぶ(グラフ)。先の見えない東電に対し、金融機関は不安を感じており、一部の債権についてはリスクヘッジを進めているのだ。

今年末の与信についても、極力私募債で対応し、債権の保全を図りたい──。これが金融機関サイドの本音だろう。元経済産業省大臣官房付の古賀茂明氏はこれを問題視する。「国民感情から見て、とても納得できるものではない。電気事業法37条を即時廃止して電力債発行をストップする必要がある」と指摘する。

ただ、震災直後に行われた約2兆円の緊急融資まで私募債に切り替えていけば、「東電の事故処理に国費をつぎ込もうとしている時に、金融機関だけ逃げ道をつくるとは何ごとか」と国民の非難が高まるのは必至。そのため、金融機関側も現状の無担保融資をロールオーバー(繰り越し)することも含め、対応を検討している。

メガバンク関係者は「新しい総特が十分なキャッシュフローを生む計画になっていれば、その範囲内で無担保融資を行うことは成り立つ」と、受け入れ余地を認める。

原発早期再稼働は困難

しかし、問題の根源は、見直し後の総特に実現性があるのか、だ。これには大きな疑問符が付く。

なにしろ前提条件が机上の空論だ。柏崎刈羽原発の再稼働について、見直し案ではいくつかのシナリオを想定しており、当初計画より1年余り後ろ倒しの14年7月に6、7号機、16年度の全7基稼働をメインシナリオにしようとしている。

6、7号機は11月21日に原子力規制委員会の安全審査に入ったものの、再稼働のメドは立っていない。審査は順調なら約6カ月間とされるが、柏崎刈羽の場合は、敷地内断層を含め、審査が長期化する要素が多い。田中俊一委員長は、東電が11月8日に発表した福島第一原発の作業環境改善策が守られなかったり、再び大きなトラブルが発生したりした場合には、審査を凍結する考えを示唆している。

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