ゴーン逮捕で浮き彫りになる「日本の特殊性」 ゴーンと日産をめぐる7つの疑問

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ゴーン氏は日産に赴任するなり、人員削減や取引先の選別を含む大規模な合理化策を推し進めた。安定と継続、そして根回しを重んじる日本的なやり方とは相いれない手法だった。このため日産の従業員と元従業員の間には、ゴーン氏に対する怨嗟が渦巻いていた。リストラされた従業員の犠牲を踏み台にしながら、あのような巨額報酬を手にしている、という怒りである。

これと正反対の事例として思い出されるのが、日本航空だ。2010年に経営破綻した日本航空を立て直すため、日本政府は京セラや第二電電(現KDDI)を創業した辣腕で知られる稲盛和夫氏をCEOに招き入れた。だが稲盛氏は大規模な改革を行う一方で、人員削減は最小限にとどめた。しかもゴーン氏とは対照的に、日本航空を立て直したにもかかわらず報酬は一切受けとらなかったのだ。

そこで次のような疑問が出てくる。日本の企業文化において高額報酬に対する抵抗感が強いとなると、日本企業が今後、海外から幹部人材を雇い入れることが本当にできるのだろうか――。

日本人以外が日本企業で活躍するのは可能なのか

そして最後に7番目の疑問として、ゴーン氏と日産の今回の一件を受けて世界では次のような疑問が浮かび上がっている。日本人以外が日本企業のトップとして成功することは可能なのか、ということだ。過去30年間にわたって、日本企業のトップに就任し、脚光を浴びた外国籍経営者は十指に余る。だが際立った成功を成し遂げられたとされているのは、ただ1人。日産のゴーン氏だけだった。

日産を再建したゴーン氏の功績と、同氏が関わっていたとされる不正は切り分けて考える必要がある。もし、ゴーン氏が再建直後に日産を辞めていたとすれば、国民的英雄として名声は残ったかも知れない。だが20年というのは相当な歳月だ。これだけの長きにわたって会社を率いていれば何が起こってもおかしくないと言えよう。

しかし世界は今回の一件を見て、「外国籍経営者が長期的に日本企業の経営で成功することは可能なのか」との疑問を持つことにならないだろうか。

もちろん、日産の将来を予想するのは簡単ではない。だが、今回の事件をきっかけにして、グローバル市場での日本企業の経営に関する課題が議論されるようになることは間違いない。進展するグローバル化の中で、グローバルに共通の理解と各国の特殊性のすり合わせが不可欠になっている。日本企業にとっても、そうした課題に対して、日本企業の在り方を世界に発信して行く良い機会ではなかろうか。

グレン・S・フクシマ 米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員

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Glen S. Fukushima

ワシントンD.C.のシンクタンク「米国先端政策研究所(CAP)」の上級研究員。カリフォルニア州出身で、アメリカ合衆国通商代表部で対日と対中を担当する代表補代理や在日米国商工会議所の会頭を務めた経歴を持つ。また、ハーバード大学の大学院生のときには、エドウィン・ライシャワー教授、エズラ・ヴォーゲル教授、デイヴィッド・リースマン教授の助手を務めた。

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