スイス人が複数言語を早期に習得できる理由 4つの公用語が存在、国の方針も後押し
子どもがマルチリンガルになる過程を研究しているスイス人の知人(大学教授、彼も当然のようにマルチリンガルで5カ国語ができる)によると、子どもの性格や言葉のセンスにもよるとした上で、幼児は「この人とはこの言葉で話す」と認識するので、子どもに対して1人1言語のルールを守れば3カ国語は問題なく話せるようになるそうだ。
スイスの語学教育だと、3カ国語が普通になる?
2カ国語を使用する子どもも、将来3カ国語以上を操る可能性は高い。スイスのジュネーブはフランス語圏だ。お母さんがジュネーブ出身(母語はフランス語)で、お父さんがチューリヒ出身(母語はドイツ語)の子どもは、生活圏がチューリでもジュネーブでもドイツ語とフランス語で育つ。これに小学校から習う英語が加わる。英語に対してポジティブな印象を持っている子どもが多いから吸収は早い。とくに最近の子どもはユーチューブが身近で英語の動画を見ることも多いため、授業以外でも普段から英語にふれている。
では、両親ともドイツ語が母語で生活圏もチューリヒの子ども(仮にJ君)はどうなるかというと、それでもマルチリンガルになる可能性は十分ある。ドイツ語、英語、そしてフランス語の学習がすでに小学校から必須だからだ。ただ、フランス語の授業が昔ながらの文法中心スタイルでスピーキングがいま一歩とか、フランス語より英語が好きでフランス語は弱いというのはよく聞く話ではある。もしJ君がジュネーブに住んでいたらフランス語の力はチューリヒに住むより強くなり、小学校からフランス語とドイツ語と英語の学習が必須となる。
というわけで、春香さんがドイツ語、英語、フランス語ができるのは環境が整っていたからであり、また3つの言葉の言語的距離が近いためだろう。日本語のレベルがとても高いことはセンスと意欲と継続の結果だと思う。
スイスのように「石を投げればマルチリンガルに当たる」状況でなくても、ヨーロッパには、現地語と英語のバイリンガルは当たり前の国もあるしマルチリンガルもどこにでもいる。ヨーロッパと日本は状況が違うので単純に比較することはできないが、日本人はなぜ「英語が苦手」の意識が強いのか。日本人が想定するバイリンガルの基準が非常に高いことも、その一因だろう。完璧に話さなければと思うあまり萎縮してしまうのだ。
ヨーロッパ人は「自分は語学ができる」という自負が強いと感じる。「英語は何でもわかるから」が口癖のスイス人の友人は、英語で会話していると「いまの、よくわからなかった。もう1度言って」と頻繁に言うし、フランス語を筆者より流ちょうに話す別の友人は、書いたものを見せてもったら間違いだらけで驚かされたこともある。
限られた文章を話す英語レベルの日本人に対して「上手だ」と言うヨーロッパ人は多い。これは実際に使うことが大事という彼らの感覚からして、お世辞ではなく本心だと思う。日本に住んでいると、多くの日本人は英語を学ぶ必要性を感じないかもしれない。それでも、ヨーロッパ人感覚で「少しでもできればバイリンガル」を目指していくことは、国際化を掲げている日本にとって、やはり大切なのでは?
(文:岩澤里美)
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