京都とパリの「女」をめぐる意外すぎる共通点 なぜ京都の遊郭と「桂離宮」は似ているのか?
鹿島:そう、偽装。実質は自分一人の経営なんです。というのも、旦那をメゾン・クローズに入れておくと、店の女の子と浮気する可能性があるから。こうした女性経営者は管理者であると同時に、女の子の親代わりとなる。だから女の子たちにとっては、ママになるわけ。しかも、この親子関係は濃密なんです。女の子たちをほとんど外に出さないから。
娼婦の館がどういう利権構造になっているかというと、客からも金を取るのだけれども、女の子たちからも巻き上げちゃう。つまり、服とか装飾品とか食べ物を女の子たちに買わせて、お金を吸い上げちゃう。だから、女の子たちは、ほとんど娼婦の館から出られなくなるんですね。
井上:じゃ、あまり日本の遊郭やお茶屋と変わらないですね。といっても、かつてのそれですが。
鹿島:変わらない。まさに、前借りシステム。
うさぎは「繁殖」の象徴
井上:私は今まで、銀座のナイトクラブは、京都系列の日本文化を背負っていると思っていました。そのことを示すのが源氏名であり、「ママさん」という呼び方だと思ってたんです。でも、実はパリもそうだと言われ、ちょっと今日は考えを改めました。ところで、フランス人は、お金を持ってきてくれるパトロンのことを「パパ」と呼びますか。
鹿島:それはどうだろう。
井上:ヨーロッパへ行けば、「パパ」はローマ法王のことでもあるから、いくらなんでも言わないよね。
鹿島:ハーフの歌舞伎役者、(15代)市村羽左衛門がヨーロッパに行って、向こうのメゾン・クローズで大いに遊んだんですよ。そしたら、その羽左衛門のことを女の子が「モン・プティ・ラパン(mon petit lapin)」と呼んだ。直訳すると「私のちっちゃなうさぎさん」、要するに「私のかわいい子」っていう意味ね。彼は、「おい、モン・プティ・ラパンってどういう意味だ」と、当時アテンドをやった渡辺紳一郎に尋ねてますね。「パパ」と呼んでないことは確かだ。
井上:『プレイボーイ』誌のうさぎちゃんというのも、そこから来てる?
鹿島:どうなんだろう、わからない。まあ、「モン・プティ・ラパン」は、メゾン・クローズの客に対してだけではなく、恋人や子どもにも使う表現ですがね。それと直接関係ないけど、うさぎってすごい繁殖力が高くて、繁殖の象徴なの。
井上:わかります。相当元気らしいですね。ところで、相変わらずこだわりますが、ロラン夫人(※2)は売春婦ではなかったと思います。
鹿島:ロラン夫人はブルジョワ出身で、夫もブルジョワです。
井上:はい。彼女のサロンに、フランス革命で活躍したジロンド派(※3)の面々が集まった。彼女の意見で、ジロンド派がまとまるというようなこともよくあった。そのあり方は、赤坂の料亭に通じるんじゃあないでしょうか。娼館ではなく、ブルジョワのロラン夫人のサロンが、日本でいう待合政治の場になっていました。メゾン・クローズの囲われた場ではないところが、政治に供されていたわけです。
フランスでも、それは例外的だったのかもしれませんが、とにかく、マダム・ロランというサロンの大ホステスが成り立ちえたわけじゃないですか。これ、日本ではあんまりないと思うんですよ。
フランス革命で活躍したジロンド派の一員。黒幕的な存在だったので、「ジロンド派の女王」とも呼ばれた。
※3 ジロンド派
フランス革命運動を推進した政治組織「ジャコバン・クラブ」の中の、穏健な共和派。急進的なジャコバン派と対立していたが、主導権を握られ、最終的には国民公会から追放された。