シャープ「世界の亀山」液晶工場が陥った窮状 外国人労働者3000人解雇の裏に「空洞化」

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液晶に注力する戦略を打ち出した町田勝彦・シャープ元会長は、かつてこんな言葉を残している。「生産技術はいわば老舗うなぎ屋の秘伝のタレみたいなものだ。自前でコツコツ積み上げていくものである。しかし、モノを作らなければ生産技術は進化しない。せっかくつくりあげた秘伝のタレは本来、門外不出だからこそ商売になるはずだ。安易な海外移転は秘伝のタレをやすやすと分け与えているようなものである」。鴻海傘下でシャープが歩む道は、この教えの真逆を行くものだ。

シャープの雇い止め対応は「不十分」

工場が立地する地方自治体も悲痛な声を上げる。亀山工場のおひざ元、三重県庁では、すでに人員削減が始まっていた今年3月と7月にシャープから事情説明を受け、雇い止め対象者に対して十分な説明をすること、再就職にあたって十分なフォローをするよう求めてきたが、「対応は十分ではなかったようだ」(三重県雇用対策課)。

12月初旬、労働組合「ユニオンみえ」など4団体がシャープの雇い止め問題について、厚生労働省で記者会見を開いた(記者撮影)

大量の労働者が突如、職を失ったことで、地元のハローワーク鈴鹿には2月ごろから大量の求職者がなだれ込んだ。日本語が話せない人が多く、ポルトガル語やスペイン語の通訳を用意して対応。ピーク時には、1000人近くの対応に追われたという。

ハローワークのある職員は、「あくまでも私見だ」と前置きをしたうえでこう嘆く。「日本企業だったときは地域の利益になることを、という思いがあったかもしれないが、鴻海が買収してからは変わってしまった。外資系企業だから、契約第一、自社の利益第一主義なのでしょう」。

亀山工場は、地域経済の活性化と雇用創出効果を狙って、三重県と亀山市が合計135億円もの補助金を支給して誘致した。だが、シャープが直接雇用する従業員数はここ数年は2000人前後で安定しており、今回のような急な受注増減の調整弁を担うのは、県内への非定住者も多い外国人労働者というのが現実だ。現在生産されている中小型液晶やテレビなども海外移管の対象となる可能性はあり、工場撤退のXデーにおびえる日々を送っている。

2017年度には、前年度の248億円の最終赤字から一転、700億円超の過去最高純益をたたき出したシャープ。鴻海や、鴻海出身の戴正呉社長による改革の成果が出ていることは事実だ。だが「秘伝のタレ」を分け与えた結果、鴻海への依存度は良くも悪くも高まる。さらに、日本以外では知名度が高くないシャープをブランド化するハードルも高い。「シャープ復活」を断言するのは、まだ早急だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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