JR九州を農場経営に駆り立てた「問題意識」

鉄道とは縁遠い農業、意外と共通点がある?

そんな安藤農場長、農業と鉄道は「基本的なところは同じ」と話す。

「鉄道はつねにフェイルセーフ、安全側で考えます。『まあいっか』は絶対にありません。農業も同じで、病気や異変が少し出たところ『これくらいなら大丈夫だろう』という判断はダメ。確実に原因を究明して、根拠のある判断をする必要があります」(安藤農場長)

また、天候に関しても鉄道同様に大きな影響を受けるのが農業だ。

「鉄道なら雪が降る予報が出たらポイントが凍らないように火をたいたりしますが、農業でも同じように対策をします。あらかじめ想定されることがあれば、先手先手で対策をしていく。農業はまだまだわからないことだらけですが、鉄道と似ているところは多いなと思いますね」(同)

鉄道会社がなぜ農業?

日々の試行錯誤で、ようやく収量・味ともに安定してきたという玉名農場のミニトマト。他の農場も、大半が軌道に乗って新たな販路も確保されつつあるという。そうしたなかで、JR九州の農業事業が目指すところはどこにあるのか。

田中社長は「農業が事業としても十分にやればできるということを世の中に見せるのが最大のミッション」と意気込みを語る。

規制緩和で多くの事業者が農業に参入したものの、思うような成果を挙げられずに撤退する事業者も出てきている。それもあって、「成功事例をつくる」ことが日本の農業の将来につながるというのだ。

「農業は思った以上に難しい。収量を確保できず、味も安定せず、赤字が続くこともありえます。でも、日本の農業の将来を考えれば素人の成功事例も出てこないといけない。すぐには難しくても何年かかけて丁寧にやったら黒字になる、事業として成り立つということをアピールしないと」(田中社長)

玉名農場の出荷風景。収穫時期には連日農場から直営店やJAにJR九州ファーム産のミニトマトが送られてゆく(筆者撮影)

現在、農業生産に取り組んでいる事業者は多くが流通や加工を本業としている。ただ、JR九州の場合は鉄道が本業で農業との直接的なシナジー効果はあまり期待できない。それでも簡単ではない農業の道に挑むには、「日本の農業」に対する問題意識があるというわけだ。

JR九州が農業に参入してまもなく10年目。各地の農場を統合してJR九州ファームが発足してからは4年半ほどになる。「うちのたまご」はすっかりブランド化しており、博多駅の駅ビル内や羽田空港第1ターミナルにも「うちのたまご」を使ったたまごかけごはんが食べられる店舗もある。他の野菜も含め、ブランド力を身に付けつつあり、確実にファンも増やしてきた。

田中社長は「これからは希少価値の高いものや郷土の食文化に根ざしたものにも挑戦していければ」と将来を見据える。はたして「鉄道会社の手がける農業」はどのような広がりを見せるのか。そして後継者不足に悩む農業を変えることができるのか。本格的な勝負は、これからだ。

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