被災者を追い立てる震災復興事業の不条理 石巻、女川で進む区画整理、道路建設の実態

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女川町の隣の石巻市では、自宅が道路の建設予定地になったために途方に暮れている住民がいる。

石巻市新館3丁目に住む小松充さん(51)は、自宅が津波被害を受けた後、幅員16メートル、2車線の都市計画道路「釜大街道線」(総延長3.6キロメートル)の買収対象用地に組み込まれたことを市役所から知らされた。2011年12月のことだ。

釜大街道線の計画は昭和40年代からあったというが、「避難道路」の性格を持つ都市計画道路として国の復興予算がついたことで初めて事業が可能になった。

小松充さんと吉田忠雄さん

道路建設の際に家屋の取り壊しを求められることから、小松さんはリフォーム工事に踏み切れないでいる。以前は応急復旧だけでもしておこうと思ったこともあるというが、今はその気持ちもなえてしまい、自宅1階にある家財道具は津波被害を受けた当時の泥まみれのままだ。小松さんはやむなく2階での生活を余儀なくされている。浴室も使えないことから、79歳の母親を「道の駅」に併設された銭湯に数日おきに連れて行っている。

小松さんは「買収するなら早く決めてほしい」と語る。しかし、2013年度予算に盛り込まれたのは、わずか1.5キロメートルを対象にした測量や補償額算定などの調査費だけ。実際の工事がいつ始まるかは、石巻市自体も「よくわからない」(基盤整備課)という。国の復興交付金の対象となったことで初めて可能になった事業であるうえ、「都市計画道路については調査費だけで終わっているケースが今までにも結構多い」(同課)からだという。

「自宅の一部だけ買収」の不条理

中ぶらりんになった住民は買収の仕方にも疑問を抱いている。

小松さん宅の隣に住む吉田忠雄さん(60)は「自宅の一部だけを持って行かれる」と心配している。事業を請け負う業者は「これから測量をするので」と言葉を濁すが、これまでに得た情報では道路用地は自宅の敷地の半分だけかかりそうだという。

道路整備では「事業に必要な土地だけを買うのが原則」(基盤整備課)。そのため、使い道のない土地が残されることになる。しかも、立ち退きを迫られた住民は、新たな住まいを自分で探さなければならない。

国土交通省都市局が2012年1月に定めた「東日本大震災の被災地における市街地整備事業の運用(ガイダンス)について」によれば、被災地(移転促進区域内)の土地の評価に際しては、「震災に伴う土地需要の減退や災害危険区域の指定に伴う建築制限等による土地の効用価値の減少等の減価要因(マイナス側への変動)を考慮する」と書かれている。

石巻市新館3丁目も津波被害を受けているためにこの考え方が援用されることになると、買い取り価格は震災前よりも著しく安くなる。その一方で、移転候補地となる高台や内陸部の土地の価格は震災前よりも大幅に値上がりしているのが実態だ。このままでは、小松さんや吉田さんは安心して住むところのない「復興難民」になりかねない。

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