”年金破綻”は本当か--年金の誤解を解く! 未納者が増えると年金は破綻するのか、年金を税方式にすることは妥当なのか...年金の専門家・堀勝洋上智大学法学部教授が、年金にまつわる疑問・誤解に明快に答える。

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Q5.税方式か? 社会保険方式か?
 A.税方式への移行は困難。税方式だと年金は減る。

基礎年金を税方式にすべきだとする主張が、最近強くなっています。

現行の社会保険方式は、リスクに備えて保険料を納める自助の要素と、加入者が相互に助け合う連帯の要素がうまく組み込まれています。これに対し、税方式の本質は困っている人を国家が救済する仕組みです。税方式では年金は自分が払った保険料の対価ではないため権利性が弱く、所得制限が付けられることが多いのです。欧米諸国でも年金のような社会保障は社会保険方式が主流で、税方式はあくまでも補完的な位置づけになっています。

税方式を主張する大きな根拠の一つは、社会保険方式では未納・未加入が生ずるというものです。しかし、Q2で答えたように、未納・未加入者は全体の5%にすぎません。残りの95%の人がきちんと納付しているのに、5%の未納・未加入者のために税方式に移行せよというのは、妥当な主張ではありません。

税方式の大きな問題は、年金水準が下がる可能性が高いことです。国の一般会計予算83兆円のうち、政策的経費は47兆円です。基礎年金の総額は約22兆円ですが、その全額を国庫負担(現在は3分の1が国庫負担)で賄うことにすれば、医療・介護や教育など、そのほかの経費にも影響します。その兼ね合いの中で、年金だけを特別扱いできるのかどうか。削減圧力に抗しきれず、必ず給付水準は下がると思います。

基礎年金の国庫負担率の3分の1から2分の1への引き上げを来年度中に行うことになっているのに、その財源すら明示できないでいます。それなのに約12兆円が必要となる税方式に移行できるのでしょうか。

この11月に最終報告を出した社会保障国民会議が、基礎年金を税方式にした場合、どれだけの財源が必要になるかシミュレーションを行っています。国民会議ではA~C、´Cの四つのケースを示しています(下図)。Aは過去の保険料の納付・未納に関係なく毎月6・6万円の基礎年金を支給するケース、Bは未納期間分を減額するケース、Cはすべての人に6・6万円支給して、保険料を全期間納付した人には3・3万円を加算するケース、Cは6・6万円を加算するケースです。

基礎年金を税方式にする場合は、Bしか選択肢がないように思えます。この図は国庫負担率2分の1達成後の数値ですが、3分の1のままなら消費税率にして5%上げる必要があります。消費税率を上げることは、政治的に非常に難しいうえ、景気に悪影響を及ぼす可能性があり、実現できるかわかりません。

ほり・かつひろ
1944年生まれ。東大法学部卒、厚生省(現厚生労働省)入省。社会保障研究所(現国立社会保障・人口問題研究所)の調査部長、研究部長を歴任。94年現職に。著書に『年金の誤解』(小社刊)など。

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