”年金破綻”は本当か--年金の誤解を解く! 未納者が増えると年金は破綻するのか、年金を税方式にすることは妥当なのか...年金の専門家・堀勝洋上智大学法学部教授が、年金にまつわる疑問・誤解に明快に答える。
Q3.世代間格差をどう考えるか?
A.若い世代が不利だが、「払い損」ではない。
年金制度において、世代間で不公平があることが指摘されています。つまり現在の高齢者は、払った年金保険料の8倍の年金をもらっている(厚生年金の場合)。これに対して若い世代は2・3倍しかもらえない。だから世代間で不公平があるという主張です。
一定の前提を置いた計算でそれは事実ですが、だから高齢者の年金を大幅に引き下げろということにはなりません。社会経済が大きく変わる中で生じた、こうした損得を論ずることがどれだけ意味があるのか疑問です。たとえば現在の若い世代は、昔の世代と比べてはるかに多くの所得を得ています。年金制度の中だけで世代間の損得を論ずることに、どれだけ意味があるのでしょうか。
先ほどの試算は、いくつもの前提の下での数字です。将来の人口変動、物価・賃金の変動、積立金の運用利回り、年金・保険料を一時金に換算する率等、さまざまです。だが、将来この前提どおりになる、または一定不変ということはありません。損得計算も、その試算どおりになるのか実はわからないのです。
厚労省の試算では若い世代も払い損はないことになっていますが、若い世代は支払った保険料より年金給付が少ないという「払い損」になるという試算もあります。この違いはどこから来るのでしょうか。
それは厚生年金の事業主(会社)負担分の保険料を、サラリーマンが負担していると考えるのか、そうでないかの違いです。サラリーマンの保険料は2分の1を事業主が負担しています。図の厚労省試算は、そう仮定しています。一方、若い世代が「払い損」になるという試算では、事業主負担分はサラリーマンが負担していると仮定しています。事業主負担の保険料は、サラリーマンの賃金の引き下げという形で転嫁されると仮定しているわけです。
事業主が負担する社会保険料や法人税などは、ほかに転嫁されることはあります。しかし、負担の転嫁は、サラリーマンの賃金引き下げという形だけではなく、商品価格の引き上げ、原材料価格の値下げなど、さまざまな形があります。生産性の向上によって負担を吸収することもあります。ですから、事業主負担分の保険料の全額がサラリーマンに転嫁されるとして試算するのは、妥当ではありません。
現役世代は少子化によって減少し、年金受給者の高齢世代は寿命の延びによって増えてきた。そうなれば保険料は高くせざるをえない。世代間で不公平が生じるのは、賦課方式では当然です。では積み立て方式にすればよいかといえばそうは簡単でない。世代間対立をあおっても仕方ありません。仮に損得計算の議論をするにしても、厚労省の試算では05年生まれでも、厚生年金(基礎年金含む)だと2・3倍、国民年金(基礎年金だけ)でも1・7倍であり、決して払い損にはなりません。