”年金破綻”は本当か--年金の誤解を解く! 未納者が増えると年金は破綻するのか、年金を税方式にすることは妥当なのか...年金の専門家・堀勝洋上智大学法学部教授が、年金にまつわる疑問・誤解に明快に答える。

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”年金破綻”は本当か--年金の誤解を解く!

Q1.年金財政は破綻しているのか?

 A.現在も将来も破綻しない。  

現在、年金財政は破綻していませんし、将来も破綻することはありません。

年金財政の破綻を主張する人の主な根拠は、(1)保険料未納・未加入増加により、年金制度が空洞化している、(2)少子化が進み、今後高齢化が大幅に進展する--というものです。

確かに少子高齢化によって年金財政は悪化します。日本の年金制度は賦課方式といって、高齢者(年金受給者)の年金は、若い世代の保険料や税によって支えられています。このため高齢者が増え若い世代が減れば、賦課方式の下では財政は悪化します(なお、保険料とその運用収入によって年金費用を賄う積み立て方式では、悪化しません)。

ですが2004年の年金改革で、高齢化の原因となる寿命の伸びや、若い世代の減少に応じてスライド率を引き下げるというマクロ経済スライドが導入されて、年金水準が徐々に引き下げられることになりました。また保険料の引き上げや、基礎年金の国庫負担率の引き上げにより、将来の財政悪化の問題は基本的に解決されることになりました。

公的年金は、社会保障の一環として国民の生活保障を行うことが最大の目的です。貯蓄や個人年金のように、利子付きで戻ってくる金融商品ではありません。

公的年金は保険料を払った国民に国が年金支給の約束をしますが、あくまでもそれは政治的約束であり、国民の合意を得て変更することができます。このため財政が悪化すれば、政治的に改革を行って破綻を防げます。

賦課方式の年金制度は毎年の総所得=国民所得を、就労世代と引退世代との間で、どう分配するかという仕組みです。高齢化が進んでも、経済成長があれば、その分を引退世代の年金費用に回すことができます。

しかし、経済があまり成長しなかった場合には、就労世代の保険料を引き上げるか、引退世代の所得(年金の給付水準)を引き下げるかしかないのです。その折り合いをつけるのが政治の役割です。

04年の年金改革の前後では、年金制度には450兆円の「未積立金」、600兆円の「債務超過」があると、国民の年金不安がかき立てられました。しかし、これは賦課方式の年金制度を積み立て方式と誤解したことなどによって生じたものです。あれだけ大騒ぎになった「未積立金論」「債務超過論」は、04年の年金改革により、将来の年金財政が安定化されたため、いつの間にか立ち消えになりました。

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