あの「モランボン楽団」超える美女楽団の正体 北朝鮮のソフト路線転換で主役に躍り出る
それでは、活動が入れ替わったかのような両楽団の動きは、何を意味するのか。金委員長の父親である金総書記は、ことに音楽や映画を愛し、同時に人民大衆を啓蒙する宣伝手段として、政治的にも重用した。
1992年に出版された著作『音楽芸術論』には、「思想性は名曲の第一の徴表である」「思想性の欠けた音楽は何の役にも立たない」と書かれており、単なる娯楽ではないことが強調されている。いわゆるソフトパワーの一環として、音楽の海外普及を国家が支援するのは、K-POPに対する韓国政府もやっているが、北朝鮮ではそんな国家のバックアップに「思想性」を重要視する。そのため、国家による直接的な政治的宣伝手段の1つとして、音楽は位置づけられている。ゆえに北朝鮮ウオッチャーがその動きを注意する理由になっている。
北朝鮮は今年4月20日に開催された朝鮮労働党第7次3回大会において、2013年から進めてきた「経済建設と核武力建設の並進路線の偉大なる勝利」を宣言し、「核開発とロケット発射実験の中止」と「社会主義経済建設に集中する」新戦略的路線を発表した。そして南北首脳会談の「板門店宣言」、シンガポールで開催された歴史的な米朝首脳会談へと続き、少なくとも表向きには核を放棄すると明言した。非核化をめぐって米朝は対立を続けるものの、少なくとも2017年のような緊張状態はずいぶんと緩和されてきたと言えよう。
軍事色が薄れ、平和外交の象徴にも
ここで牡丹峰楽団のこれまでの活動を振り返ってみる。メンバーは階級章を着用した軍人であり、同じく朝鮮人民軍に所属する功勲国家合唱団と合同で公演を行うことも多い。いわば兄弟姉妹的な関係でもある。また、北朝鮮が弾道ミサイル発射実験や水素爆弾実験に成功と発表した後に開かれた祝賀公演をはじめ、多くの演奏活動を行っており、公演では核武力を賛美する楽曲も多く歌った。
この点を考えると、「核・弾道ミサイル」といった軍事的イメージの強い牡丹峰楽団や功勲国家合唱団よりは、現在の情勢からすれば、「平和外交の象徴」として韓国にも派遣した、三池淵管弦楽団を重用していると見て間違いない。
では牡丹峰楽団は、今後も登場することはないのだろうか。実は、同楽団に所属する一部の歌手は三池淵管弦楽団として、朝鮮服(チマチョゴリ)を着用して登場している。また、規模は縮小したものの、弦楽カルテットはおなじみの白い軍服風の制服を着用。平壌を訪問した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領歓迎公演や、前述のキューバ議長歓迎公演にも出演している。さらに功勲国家合唱団の歌手は軍服ではなく、タキシードを着用して同公演に出演した。外交イベントではない建国70周年祝賀公演、同じ社会主義国家としての団結を強調するキューバ議長歓迎公演では、オーケストラと合唱団員は軍服を着用して登場している。
これらの公演履歴から、政治的な意図によって、同楽団が完全に解散させられたのではないことがうかがえる。牡丹峰楽団に付いた「軍事色」が徐々に薄れたころ、米朝関係の改善といった情勢の変化を見極めながら、牡丹峰楽団や功勲国家合唱団の大規模な公演は、平和外交や人民経済建設の象徴として再開されることもありうるだろう。
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