ノイズキャンセリングヘッドフォンというジャンルは、もともと航空機向けに開発された技術だった。周囲の雑音と逆位相の振動を与えることで雑音を打ち消し、コックピット内での音声コミュニケーションを円滑にするための道具として開発された。
それを民生用製品に転用して世に広めたのはボーズだ。彼らの製品はつねにトップクラスの性能を誇り、節目に投入される製品が世の中をリードしてきた。そもそも、民生用のノイズキャンセリング機能付きヘッドフォンという市場を生み出したのはボーズである。
そんな中でソニーは、当時としては“無理”と言われたデジタルノイズキャンセリング機能を世界で初めて実現したMDR-NC500を製品化。民生用としては元祖とも言えるボーズに挑戦したが、すぐにソニーを追い越して突き放していた。
しかし、その後にソニーが発表したMDR-1000Xは、それまでの常識を越えた高いノイズキャンセリング能力を誇り、このジャンルで圧倒的なブランド認知を誇ってきたボーズにセールス面でも追いついた製品だった。
実はこのことが、ソニーの欧州におけるオーディオブランドの再浮上をもたらし、売り上げをもたらした。2016年秋に最初のモデルが店頭に並び始めると、その性能と品質の高さから30~40%もの伸びを示し、それがよりカジュアルな製品の売り上げ向上をも後押ししたのだ。
欧州ソニーのヘッドフォン売り上げは、この3年間に5倍以上に達し、ドイツの著名ブランド(ゼンハイザー、AKGなど)と同等以上の売り場スペースが与えられるようになった。
圧倒的なノイズキャンセリング能力の高さ
1000Xの長所は、体験すれば誰もが理解できる、圧倒的なノイズキャンセリング能力の高さだった。以前よりも幅広い帯域でノイズを除去し、加えて声の帯域だけを取り込むなど状況に応じて必要な音声情報を取り込むこともできる。
そして高い音質。音楽を楽しむ製品である以上、音質は極めて重要であるが、ノイズキャンセリング能力を高めると、音質(特に低域)の確保が難しくなる。音を打ち消すためにドライバーユニット(音波を作るアクチュエーター)の能力を使う必要があるためだ。
ところが、1000Xはそのいずれをも備えていたうえ、高い操作性や長時間のバッテリー駆動時間などを実現し、地元市場である日本はもちろん、ボーズの地元であるアメリカでも存在感を伸ばし、欧州では地元ブランドを追い越す勢いとなるなど、あっという間に広がったのである。
その登場以来、2年以上が経過しているが、1000Xを超えるノイズキャンセリング機能を持つ製品は出ていない。昨年、その2代目となるWH-1000XM2も登場しているが、主にバッテリー持続時間、飛行機内など気圧が低い場所での使用感の改善などを果たしているが、いずれにしろライバルが存在しない状態だった。
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