日本が「睡眠不足大国」に転落した3つの事情 急速に減少していく日本人の「睡眠時間」

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1970年代以降になると寝る時間がどんどん遅くなり2000年にはついに夜中の1時に。出勤や登校などで起きる時間はおおむね固定されているため戦後から50年ほどで、日本人の睡眠時間は1時間も減ってしまったわけです。

「8時間は寝なきゃ」は都市伝説

日本人の多くが睡眠不足な一方で、「自分は7~8時間は寝ているから大丈夫」「毎晩よく眠れるし睡眠時間だけは確保しているから心配ない」と胸を張る方がいますが、実は危険です。働き盛りのビジネスパーソンで「睡眠負債ゼロ」の人はほぼいません。

長年、誤った「常識」がまかり通っていました。「8時間睡眠が理想」もその一つ。日本人の1日の平均睡眠時間は7時間42分。確かに8時間に近いですが、これはあくまで平均値です。

最適な睡眠時間は個人差が大きく、誰もが8時間必要というわけではありません。6時間で十分な人もいれば9時間以上眠らないと日中に眠くなってしまう人もいます。同年代であっても個人差が3時間以上あることがわかっています。

これは体質の違いです。5時間の人は勤勉で、9時間の人は怠け者ということではありません。年齢や季節などによっても必要睡眠量は変わり、普通は加齢とともにだんだん減っていきます。30代では7時間必要だったが70代になると6時間程度で十分というのは珍しいことではありません。8時間以上眠れるのは中学生くらいまでで、その後は必要な睡眠時間はしだいに短くなっていくのが普通です。

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世界各国で行われた多くの睡眠研究により「成人後の睡眠時間は10年ごとに十数分ずつ短くなる」「夜間の中途覚醒時間は10年ごとに10分ずつ増加する」という結果が出ました。

1日8時間というのは、働き盛りの30代や40代でも長すぎるくらいで、70代以降は正味6時間くらいしか眠れないということがはっきりしています。体質的に9時間眠る必要があるのに7時間になっているなら、しっかり寝ているようでもやはり睡眠不足になります。

睡眠負債をため込まないためには、古い睡眠常識を改め、「自分にとって必要なだけ眠る」ことが大事なのです。

三島 和夫 秋田大学医学部教授

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みしま かずお / Kazuo Mishima

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科を卒業後、同大精神科学講座講師、同助教授、アメリカ・スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。

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