私が最近心配しているのは、「食品ロス」をなくすためということで、給食指導を強化する動きがあることです。いわく、「日本は世界一の残飯大国で大量の食べ物を捨てている。世界には食べたくても食べられない人たちがたくさんいるのに申し訳ない。農家の人や調理した人たちにも申し訳ない。もったいない精神で食べ残しをなくそう」。
こういった声に押されて、給食の残量調査が強化され、先生の中には自分のクラスの残量を減らすことに躍起になる人もいます。給食の後で「今日は25人が完食!」などと発表する先生もいます。これをやられると小食で食べ残す子はいたたまれなくなります。友だちから「○○ちゃん、残さないで頑張って食べようね」と励まし(?)を受けたり、「○○ちゃんのせいで全員完食できなかった」などと嫌みを言われたりすることにもなります。
トレンド総研が2018年5月16日に発表した調査結果によると、小学校教員の86%が給食の残食率が気になっており、「頑張って残さず食べさせるように指導している」という教員が68%にも上るとのことです。
給食の完食を強制するのはナンセンス
もちろん、食品ロスを減らすためにできることをみんなで協力して行うことは大切です。冷蔵庫の管理をして期限切れで廃棄ということをなくす、冷凍保存の工夫をする、レストランのメニューに小盛りや中盛りの選択肢を入れる、「少なめで」と言う勇気を持つ、などです。でも、それ以上のことはしてはいけないのです。
子どもたちに給食の完食を強制するなどまったくナンセンスです。子どもが無理に完食することで難民や貧困の人たちが救われるわけではありません。その子が食べ残すことが、まるで難民や貧困の人たちを苦しめることでもあるかのように脅すのはやめるべきです。
もし、お宅のお子さんが給食で苦しんでいるなら、大人の交渉力を発揮して救ってあげてください。「以前、無理に食べさせようとしたら、登校渋りになって……」「一口だけでいいからと言ってナスを食べさせたら、吐いてしまいました」などといった言い方は効果があります。「家でも好き嫌いをなくそうと頑張ってるんですけど……」と伝えると、先生も「家でもやってくれているんなら、まあいいか……」と思ってあきらめやすくなります。
さらに問題提起させていただくと、私は「給食は食べ残せ」と教えてもいいくらいだと思っています。というのも、食べすぎこそが現代人の不健康の一大要因だからです。実際に、市町村の保健師がメタボや生活習慣病の予防指導をおこなうときには、「満腹になるまで食べない。食べ残す勇気が必要」と教えています。
アンチエイジング研究の第一人者・白澤卓二氏は、次のような研究を紹介しています。
「ウイスコンシン大学のワインドラック教授の研究によると、ヒトに近いアカゲザルを使った実験で、カロリーを70%に減らした(腹七分目)猿たちは、病気の発症率や死亡率、認知機能、学習機能などにおいて老化度合いが顕著に少なかった」。
金沢医科大学の古家大祐教授によると、「肌から髪の毛、筋肉、骨、内臓、脳……。頭のてっぺんからつま先まで、全身の老化にブレーキをかける」サーチュイン遺伝子というものがあり、それは腹七分目の食事によってスイッチオンになるそうです。
つまり、健康長寿や認知症予防などのためには、腹七分目が大事なのです。そのためには、初めから配膳量を減らすのはもちろんですが、目の前に出された食事を勇気を持って食べ残すことも必要です。それには子どもの頃からの習慣が大切で、「完食は偉い」という刷り込みをしていたのでは不可能な話です。
この先、長い人生を生きる子どもたちのことを本当に考えたなら、あえて「満腹になるまで食べない」指導をすることこそが大事なのではないでしょうか?
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