淘汰の季節迎えた外国為替証拠金取引、深手を負った投資家が官製市場になびく
「税制優遇などのメリットを考慮して、今後は『くりっく365』に取引を移すことにしました」
「私は年収が3000万円以上あるので、今の総合課税の仕組みでは、50%の税率がかかってしまい、儲けの半分しか受け取れない。『くりっく365』なら税率が20%なので、資金を全部移動させました」
外国為替証拠金取引(FX)を手掛ける大手企業は最近、取引の解約に踏み切った顧客へのアンケートで、こんな記述を目にすることが多くなったという。同社幹部は、「このままでは顧客離れが広がりかねない」と頭を抱えている。
「くりっく365」は、同じFX取引だが、東京金融取引所(以下、金融取、齋藤次郎社長)が手掛ける取引所取引だ。
金融取のホームページを眺めると、「くりっく365」について、「有利」「安全」「税制優遇」の文字が大きく並んでいるのがわかる。そのうち「税制優遇」をクリックすると、租税特別措置法に基づく「先物取引に係わる雑所得等の課税の特例」「先物取引の差金等決済に係わる損失の繰越控除」といった税法上のメリットがうたわれている。
具体的には、くりっく365で発生した利益は雑所得として申告分離課税の対象になり、税率は20%で一律。総合課税の店頭取引の15~50%と比べて、儲けが大きいほど税率が有利になる。また、くりっく365の損益は株式先物、商品先物の損益と通算できる一方、損失を翌年以降3年間にわたり、繰り越すことができる。
前出のFX企業幹部は、「取引所取引に限定した税制優遇は、不公平税制で民業圧迫だ」と憤る。そして、「今年のように、為替が乱高下して損失を被った顧客が多い中では、損益通算や損失の繰り越しができる仕組みがあるのとないのとでは、顧客が得るメリットがまったく違う。しかも、時間が経つほど、その格差はボディブローのように響いてくる」と指摘する。その主張の是非は置くとして、同種の取引で競争条件に大きな差があることは確かだ。
「二つの税制」の経緯
「同種の取引で二つの税制」とはいったいどういうことなのか。
実はこの問題は、FX業界の特異な歴史と深くかかわっている。
FXは1998年の外国為替取引法改正で登場した新たな金融商品だ。証拠金を取引業者に預けることで、その証拠金の数倍から数十倍の元本があると想定して、円とドルなどの取引を行うことができる。言い換えれば、少ない元手で大きく運用できる「レバレッジ取引」にほかならない。そして、外貨預金と異なり、円安でも円高でも利益を狙うことができるのも特徴だ。
ところが、FXは社会問題を巻き起こした。一時は200社ともいわれる業者が参入する中で、詐欺まがいの取引が横行。そこで金融庁は2005年の金融先物取引法改正に伴い、金融先物取引の一種と見なして規制の網をかけた(FXは実際は現物取引)。そして、金融取(当時は東京金融先物取引所)が取引所商品として扱い始める際に、取引所取引に限って「税制優遇」が認められた。