《MRI環境講座》第6回 カーボン・オフセットは温暖化の抑制に寄与するか?

 「削減の確実性」については、先ほど、オフセット・プロバイダーが提供するクレジットの大半が京都クレジットであるから、一定の信頼が置けると述べた。ただ、最近では、国内での削減・吸収活動に対してクレジットを発行する制度も検討されている。これは海外のみならず、国内でもより削減を促進させるためのツールとして始めるものだが、もし実際に削減・吸収されていない、或いは追加的に実施されるのではないプロジェクトに対してクレジットを発行してしまったら、幾ら、そのクレジットを購入したところで更なる削減には貢献していないことになる。従って、クレジット対象となるプロジェクトが確実に温室効果ガスの削減に寄与していることをルールによって担保することが必要である」(*2)。

 次に「削減量の正確性」であるが、この“削減量”はあくまで計算上の数字であり、形がないため簡単に変えられる。同じ削減活動に対して、ある人が100トン削減したと言い、他の人は150トン削減したと言うようなことが認められてしまったら、この削減量に基づくクレジットの信頼性は無くなる。計算に関する統一的なルールと、削減量の計算結果に対する第三者機関による確認(検証)が必須である。

 最後の「プロセスの透明性」もカーボン・オフセットが信頼性を得るためにはキーとなる。クレジットは物理的な形がないため、何度もクレジットを使い回す(ダブルカウントする)ことが簡単に出来てしまう。また、オフセット商品・サービスを販売する企業側においても同様に販売分のクレジットをきちんと確保せずに商品・サービスを販売する恐れもある。この偽装行為を防ぐには、オフセット・プロバイダーや、商品・サービスを販売する企業のクレジット確保量と販売量の確認などの一連の流れの透明性を確保し、政府により監視することが必要である。また、クレジットの二重発行や偽装行為を防ぐためにはクレジットを統一的なシステム(*3)で管理することが極めて重要である。

■「排出量の見える化」もカーボン・オフセットの利点

 筆者は、カーボン・オフセットの利点は、人や企業の活動によって発生する温室効果ガスを、クレジットの売買によって相殺し、±ゼロとすることに留まらないと期待している。排出量をオフセットするには、人も企業もまず、自らが排出する温室効果ガスの量を知らなければならない。例えば、オフセット付き旅行を買うときには、自分が旅行をすることによって、どれだけ環境に影響を及ぼしているかを自覚するし、例えば、それが企業であれば、自身の生産活動の排出する温室効果ガスを計測し、把握することになる。この「排出量の見える化」が、温室効果ガスの排出量そのものの削減の一歩になると筆者は考えている。

 カーボン・オフセットは「削減量の見える化」にも役立つ。例えば現在、ビニールハウス農家で使う重油を木質ペレットに代替する事業が高知県で動き始めているが、この事業を進める中で農家は木質ペレットを使用することによる削減量を意識するようになっている。「どんな行動がどれだけの温室効果ガスの削減につながるのか」を数値で具体的に分かることも、更なる削減努力につながるだろう。一方で、環境省のガイドラインでも明記されているように、「カーボン・オフセットありき」となるのは理想的ではなく、自らの生活や消費活動を低炭素型のライフスタイルにするよう心がけることが並行して行われることが大切だ。

 カーボン・オフセットは、まだ始まったばかりの取り組みであるが、非常に速いスピードでビジネス化されている。低炭素社会を達成するための一つの仕掛けになる可能性を秘めているからこそ、明確で統一的なルールを整備し、健全に成長していって欲しいと切に願っている。

<参考>
現在、政府ではカーボン・オフセットに関する制度整備を行っている。具体的な検討状況やガイドラインは以下のページより参照できる。
カーボン・オフセットフォーラム
環境省

*2環境省は国内でのクレジット創出制度を「オフセット・クレジット(J-VER)制度」として2008年11月14日に開始した。本制度では国内のクレジット創出プロジェクトについて国際基準に則った厳格なルールを定めている(http://www.4cj.org/jver.html)。
*3クレジットを発行・移転・償却等の管理を行うシステムは「登録簿」と呼ばれ、京都クレジットもこの登録簿において管理されている。

《プロフィール》
株式会社三菱総合研究所
環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部
環境・エネルギー研究本部は、環境・エネルギーに係わる様々な専門分野を持つ約100名の研究員により構成。その前身の地球環境研究本部は、リオ・サミットの前年である1991年の創設以来、国などにおける環境関連政策、制度設計の支援、関与など中心とし幅広い実績を持つ。
また、企業における環境問題への取組の浸透、拡大等が進む中、先進的な環境関連の事業、ビジネスを支援する機能として、環境フロンティア事業推進グループが2007年10月に設立。電話番号は、03-3277-0848

真野秀太 研究員
環境・エネルギー研究本部地球温暖化対策研究グループ
排出量取引制度や算定・報告・公表制度等の国の制度設計の業務や、京都メカニズムに基づくプロジェクト発掘・形成に携わる一方、企業への温暖化戦略のコンサルティング業務を行う。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2008年11月25日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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