「学芸大学」「都立大学」駅名変えなかった理由 実態とかけ離れても「地名」として地域に定着

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東京圏では駅名は実質的な地名であり、不動産の広告などでも「〇〇駅から徒歩〇分」といったうたい文句が大きく掲げられ、実際の地名より重要視されているといっても言い過ぎではない。駅名が地域に根ざしている以上、学芸大学駅や都立大学駅のように実態に見合わなくなっていても、鉄道会社にとって駅名を変えるのはなかなか難しいことなのだ。

すると今回、京急が全線の多くの駅について駅名を公募した狙いはどこにあるのか……と考えたくなる。

京急に聞いてみると、「目的は沿線の活性化であり、より(地元の子どもたちに)沿線に興味を持ってもらいたいから」ということである。「具体的に変える駅は決めていない。変えることで(地域の)活性化につながる駅の名前を変える」と方針を教えてくれた。

沿線に興味を持つ機会に

京急は今回、他社線との乗り換え駅や公共施設・神社仏閣の最寄り駅など、公募で駅名を変更していない予定の26駅を発表しており、告知でも、産業道路駅のほかに変更を検討するのは「数駅」であると明記している。多くの駅を対象に公募はしたが、それがすべて変わるわけではない。

駅名を変更する京急大師線の産業道路駅(写真:tommy / PIXTA)

また、応募資格も京急沿線在住の小・中学生と限定している。「駅名公募」という大胆な企画は沿線を盛り上げることが狙いであり、それを地元の小・中学生に限定したのは、将来の京急ファンを確保するためだろう。

都立大学駅の駅名の由来となった現在の「首都大学東京」について、小池百合子都知事は今年8月、同大学名を2020年度から再び「東京都立大学」に戻すと発表した。背景には大学名が変わったことによる認知度不足などがあるという。大学名にせよ駅名にせよ、アイデンティティの根幹であり、長くなじんだ名前を変えるのは難しいのだ。

そう考えると、東急が「学芸大学」「都立大学」の駅名を変えないのは、ある意味正しいことだ。京急の駅名公募も話題を呼んだことで、対象となった子どもたちだけでなく、改めて多くの人が自分の住む地域やその地名、そして駅名の意味や重要性について考えるよい機会になったのではないだろうか。駅名変更を行う駅と実施日については、2019年春ごろに発表される予定だ。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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