8%の軽減税率で生じやすい「不合理な事実」 実質値上げに気づかず受け入れてしまう懸念

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消費税改定後の価格変更については、このような実質値上げが行われたとしても、ヒューリスティックによって勘違いしてしまう可能性はおおいにあるのではないかと思います。

零細企業が取引から排除される!?

もう1つ、これは零細企業を営む立場からすると、今回の改訂に関連して2023年10月1日から導入される予定の「適格請求書等保存方式」(インボイス方式)も、まだまだ多くの問題をはらんでいそうだと考えています。この仕組みを説明すると複雑になるので、どういうことかについて、ごく簡単に説明します。

消費税というのは消費税納税義務者となる課税事業者が「もらった消費税」から「支払った消費税」を引いた分を国に納める仕組みになっています。ところが、中には免税事業者という存在があります。これは基準期間(前々年度)における課税売上高が1000万円以下の事業者等のことです。いわば零細な事業者と言ってよいでしょう。

「支払った消費税」というのは仕入れ先へ払ったものです。従来はその仕入れ先が課税事業者であっても免税事業者であっても「支払った消費税」を差し引くことができました。

ところが、2023年から免税事業者からの仕入れに関しては、消費税の税額控除ができなくなるのです。

これによって一体何が起きるかというと、同じ仕入れ額であれば税額を控除できる課税業者から仕入れたほうがいいわけですから、控除できない免税事業者は取引から排除されることになりかねません。

だからと言って、課税事業者に対して「免税業者から仕入れなさい」と強要することはできません。どこだって自分のところに有利になるような選択をするのは当然だからです。その結果、免税業者のままでは取引してもらえなくなる恐れがあるため、導入後はほとんどの零細企業が「課税事業者」を選択するのではないでしょうか。

このように一般的に言われている問題だけではなく、「軽減税率」はまだまだ検討をすべき課題が多く、議論を重ねるべき制度であることは間違いないと思います。2019年10月からの消費税引き上げは避けられないとしても、軽減税率についてはぜひ再考してもらいたいものだと思います。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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