JR西が「秘仏本尊大開帳」を機に狙う相乗効果 忍びの里・甲賀の古刹「櫟野寺」なんと読む?

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同社は今年の春から草津線の貴生川―柘植間をICカード「ICOCA」が利用できる区間に加えた。今回、歴史たびのキャンペーンで櫟野寺を取り上げたのは、草津線の観光利用を拡大する狙いもある。

一方、地元の行政も地域活性化のチャンスを逃さない。甲賀市は2017年に同市が誇る「信楽焼」と「甲賀流忍者」が文化庁の日本遺産に認定されており、今秋のJR西日本の特別企画を起爆剤として観光客の呼び込みに拍車をかけたい考えだ。

櫟野寺の宝物殿では本尊のほか、貴重な仏像が一堂に会する(記者撮影)

岩永裕貴市長は「櫟野寺の大開帳は特筆すべき大きなイベントなので、成功するように市を挙げて頑張っていきたい」と力を込める。

甲賀は随筆家・白洲正子さんの著書「かくれ里」のゆかりの地でもある。室町時代の社殿が残る油日神社は、映画やドラマのロケ地として有名だ。最近では連続テレビ小説「わろてんか」の撮影に使われた。市内には朱塗りの楼門・回廊が印象的な大鳥神社も鎮座する。

ただ、いずれも草津線の甲賀駅やその隣の油日駅からは、歩いて訪れるのにはやや遠い。そこで甲賀市は大開帳の期間中、毎日7便の臨時バスを運行することにした。甲賀駅から油日神社、櫟野寺、大鳥神社の順に走るルートで、付近の由緒ある寺社を一度に周遊できる足を確保した。行政が協調してバス路線を設定するのはキャンペーンの産物といえる。

「歴史たび」を活性化のきっかけに

地方にとって観光需要の掘り起しは難しい課題だ。甲賀市の岩永市長は「甲賀には地元に根ざした魅力的な場所が多いが、あまりうまくPRができていなかった。今回のキャンペーンをきっかけに、ぎょうさんの方に来ていただければありがたい」と話す。

33年に一度の本尊大開帳を迎えた櫟野寺(記者撮影)
櫟野寺の三浦密照住職(中央)と甲賀市、JR西日本の代表ら(記者撮影)

櫟野寺の三浦住職も「滋賀県には立派な文化財がたくさんあるにもかかわらず、京都や奈良からもうひとつ足を伸ばせてもらえていなかった」と指摘。「仏様、観音様は湖北地域の文化財が有名だが、県南の甲賀地域にもたくさん残されている。ご開帳を機に知ってもらい、秋の山里を散策してほしい」と訴える。

これまでの「ちょこっと関西歴史たび」の開催地の中には、来訪者が前年同期の3倍に増えた場所もあるようだ。多くの参拝客に来てもらいたい寺社と、地域を活性化させたい自治体、沿線の乗客を増やしたい鉄道会社――。それぞれが単独でPRを頑張っても効果は薄いかもしれないが、3者で一体となって盛り上げれば大きな力を発揮できる可能性がある。沿線・地域の活性化の方策に悩む全国の鉄道会社や自治体も、ちょこっと参考にしてみてはどうだろうか。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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