貧困を救う手立てがあまりに弱い日本の現実 結局、階層間の景色が共有できていない

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阿部:日本の累進度は低いですよ。アメリカなんかはビル・ゲイツみたいな人もいっぱいいるわけじゃないですか。所得のいちばん上のほうの人の所得がめちゃくちゃ高いんですよ。なので税金もそこからたくさん取ったりしてるわけですよね。日本の場合はそこまでリッチな層は薄いので、比較的にフラットな税金の課税の仕方です。

ただ、この20~30年間でその累進度がどんどん低くなってきた時期があります。昔は最高税率が70%とかだったときもありましたが、1999(平成11)年に最低の37%となり、今は、45%まで上がってきています。

鈴木:法人税に関しては?

阿部:法人税に関しては、よく言われる議論が、法人税は諸外国並みに下げなければいけない、というものです。日本は高い。

鈴木:それは経団連的なとこにぶら下がり的なジャーナリストの御用オピニオンかと思っていたら、実際に高いんですね。

阿部:高いために海外からの投資が来ない。誘致ができない。外に行ってしまう。法人税が安い韓国とか台湾とか、向こうに行ったほうが日本にベース置くよりいい、アジアの拠点が他国になっている、というふうに言われていますね。だから、どんどん下げなきゃいけない、と。

私は税の素人ですが、ほんとにそうなのかなあと思うところもあります。ほんとにみんな外に行っちゃってるのかなあ、と。でも、その見極めは難しく、なかなか論破できない。ただ、全体的に見て、税金を払ってないというのは確かですね。

低所得者の負担は他国に比べて大きい

鈴木:そうなのか……。こんなにも個人の税が重いってみんなボヤいているのに。

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阿部:日本の場合、低所得者の人は他国の低所得層に比べて給付も少ないし、社会保険料など逆進的な負担もあるので、負担が多いぐらいなんです。ただ、中間層以上の人たちがあまり払ってないんですよ。たとえば年収500万円とか600万円ぐらいの人たちで、そんなに生活が楽なわけじゃない。

なので消費税を何%上げますとか言われたら、みんな「ええっ」と思うでしょうね。ですけど、そこの層が払っていかないかぎり、財源は増えない。ピケティが言うみたいにすごい富裕層だけに課税して、それでなんとか国が回っていくというのは、日本の場合ありえない。ですから、中間層がもっと負担しなきゃなりません。それを納得してもらうのはすごく大変なことです。

鈴木:でしょうね。結局、階層間の景色が共有できてないという話で、中間層の人間は「隠れた富豪がいるに違いない」って思っている。東京を足下に見ながらワイングラス揺らして猫をひざに置いているガウン姿の誰かがいるだろうと。それが日本には思ったよりいないって話か。

阿部 彩 社会政策学者、首都大学東京教授

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あべ あや / Aya Abe

マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、国立社会保障人口問題研究所などを経て2015年より現職。著書に『子どもの貧困』『子どもの貧困Ⅱ』(岩波新書)など。

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鈴木 大介 ルポライター

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すずき だいすけ / Daisuke Suzuki

1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当。

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