農業と工業のリアルを伝える「専門紙」の実像 日本農業新聞と日刊工業新聞、制作の裏側

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自分たちの情報が、ネットで消費者にこのような形で繋がっていくというのも意外だったという藤井さん。それでも大事なのはやはり「農家の立場を代弁する」という軸足だと話します。「自分たちは農家の人の目で見て、耳、鼻で感じたつもりで取材し、代弁しているという思い。それがなければ、一般紙と同じになってしまう。一方で、農家向けだけでなく、挑戦もしなければいけない。一人でも多くの消費者に食や農に興味を持ってもらいたいです」。

日本の産業を伝えて100年以上

時代が江戸から明治に移り変わり、日本にさまざまな「西洋式」が入ってくると、イギリスに端を発した産業革命が日本にも波及。1872年(明治5年)創業の富岡製糸場に代表されるように、最新の機械、技術が次々に導入され、日本は近代化に成功、産業立国として歩みを進めていきます。そんな産業界の専門紙として1915年(大正4年)に創刊されたのが「鉄世界」、現在の日刊工業新聞です。

「創業から100年を超え、今では全国に約40カ所に拠点を設けて、取材活動を行っています。地域の企業の方々からは、『うちの地元には日刊工業新聞の記者がいる』と認識していただいています。こうしたネットワークを生かした企業取材も私たちの強みと考えています」

こう語るのは、日刊工業新聞の大崎弘江さん(第1産業部長)。3月まで全紙面を管理する職務を担っていましたが、かつては記者として多くの業界・業界を取材してきました。鉄則は「企業のトップに会わないと、ネタは取れない」。社長の話を聞くことができればその企業の「色」が見えてくると、大崎さんはいいます。

取材した中で印象に残る業界はリーマンショック時に激動の動きを見せた自動車業界という大崎さん(写真:news Hack by Yahoo!ニュース)

「それができるのも、『日刊工業新聞』の看板があってこそ。新卒で入社したばかりの私でも企業の社長やみなさんからいろいろ教えていただき、今思えば育てていただいた。そういう取材活動の中で書いた記者たちの記事が、ビジネスの『種』になることもあるんです」

取材を受けたある企業の社長が自身の記事に目を通した後、何気なく新聞をめくって目に入った別の企業の記事を見て、その社長は「ここだ」と直感。実は技術提携先を探していたそうで、「後日、その社長から『提携したよ』と軽いトーンで伝えられたんですが(笑)、そうした新聞をめくるという何気ない行動がビジネスにつながったのは、私たちのやりがいの一つかなと思いますし、偶然の出会いがある紙の良さかなと」。

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