トヨタがクルマの売り方の将来に抱く危機感 所有意識変化やEV化に向け新型ローンも
こうなると、残価設定ローンという仕組みが使えなくなる。そこで、自動車メーカーが目を付けたのが「サブスクリプションサービス」だ。残存価値を気にせず消費者が高級EVを受け入れやすくする新たな仕組みと言えるだろう。
カーシェア普及の影響をもろに受ける大衆車メーカーであり、かつ、レクサスを世界で売る高級車メーカーでもある「2つの顔」を持つトヨタは、モビリティサービスのプラットフォーマーの台頭、クルマの残存価値に対する考え方の変化に対し、かなり強い危機感を持っている。先日発表されたソフトバンクグループとの提携もこの危機感から、トヨタみずからが仕掛けて成就させた。
その危機感は役員人事からも見て取れる。トヨタは今年6月14日の株主総会での役員人事で、平野信行・三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)社長を社外監査役に迎え入れたことは、トヨタの危機感の表れの1つだ。
ここで少しトヨタと銀行の関係について歴史的に振り返ろう。トヨタの主力取引銀行は旧三井銀行だった。創業の頃、三井物産から支援を受け、豊田章一郎名誉会長夫人である博子氏も三井本家出身であるように、トヨタは三井財閥とのつながりが深い。
これに対して、トヨタが戦後に経営危機を迎えた際に、融資を真っ先に引き上げたのが旧住友銀行だった。このため、旧住友銀行はトヨタと長らく取引ができなかった。1990年代、章一郎名誉会長の実弟で元トヨタ社長の達郎氏の長男である達也氏と、旧住友頭取で中興の祖と言われた堀田庄三氏の孫娘が結婚したことで、トヨタと旧住銀の歴史的な和解が成立したと言われた。
時代も流れ、旧三井と旧住友が合併し、三井住友銀行となり、旧三井に続くトヨタのメーンバンクだった旧三和銀行、旧東海銀行の2行も三菱UFJ銀行となり、メガバンクが誕生した。
このため、旧財閥の流れはもはや関係ないと見る向きもあるが、創業家がまだ強い影響力を残すトヨタでは、まったく関係がないわけではない。現に今年1月に三井住友銀行常務からトヨタ常務に転籍した福留朗裕氏は旧三井出身である。今年6月から社外取締役に就いた三井住友銀行の工藤禎子常務も旧三井入行だ。
一方、平野氏は旧三菱銀行入行であり、生粋の三菱系のトップであり、トヨタや豊田家との関係が深いわけでもない。平野氏を受け入れた狙いについてトヨタ系企業の役員はこう見ている。「ずばり新しい販売・決済システムをグローバルに導入していくことに対して、邦銀の中ではグローバル経営に関して抜き出てセンスのよい平野氏の知見を経営に採り入れる狙いがあるのではないか」
トヨタの「オールジャパン」の構想
トヨタは最近、「オールジャパン」という言葉を好んで使い、あらゆる事業領域で日本の産業界の叡智を結集する動きを模索しようとしているが、系列外の銀行トップを社外監査役に入れることで、その動きを加速させたい考えがあるようだ。
カーシェアのユーザーは、クルマ、飛行機、電車、シェア自転車、バスなどさまざまな交通手段を使いこなして効率的な移動を目指す。トヨタが目論むのは、こうしたユーザーの決済も自社に取り込むことだ。トヨタはすでに、トヨタファイナンスが自前のクレジットカードを発行しているが、クレジットカード機能にとどまらず、世界の交通機関で使える決済システムをいかに構築するかの検討に入っている模様だ。
オールジャパン構想は、平野氏の「入閣」だけではない。今年5月のメディア向け決算発表の席に、突如、東京海上ホールディングスの永野毅社長が現われ、豊田章男社長に、「企業が永続的に続くには何が必要か」などと質問して、報道陣を驚かせた。
トヨタ内部には「東京海上も三菱系でトヨタ系列外だが、日本最大の保険会社グループとも密に連携していくことをアピールする狙いがあったのではないか」との声もある。今後、売り方が変化していくなかでは、ディーラーが収益源の1つとしている損害保険の在り方も含まれる。
自動車産業は100年に一度の変革の時代を迎えたと言われているが、これは、開発や生産といったモノ造りの分野だけではない。販売・決済システムにも大きな変化の波が押し寄せてきている。
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