トヨタがクルマの売り方の将来に抱く危機感 所有意識変化やEV化に向け新型ローンも

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米ウーバー、中国の滴滴出行(DiDi)、東南アジアのグラムなど世界では移動の需要とニーズをスマホ上で効率的にマッチングさせるライドシェアの存在感が増している。2017年、ウーバーの利用者は年間約8000万人、乗車回数約40億回、DiDiは利用者が約5億人、乗車回数約74億回だったとされる。国内では「タイムズカープラス」に代表されるカーシェアの普及によって、自家用車を持たなくても15分単位で簡単にクルマが借りられるサービスが拡大している。

クルマ販売のビジネスモデル転換期への突入

特にカーシェアのユーザー層は、維持コストを考えて、クルマを保有せずともよいと考えるシェアエコノミー謳歌派とも言える。こうしたユーザー層は、若者だけに限らず、筆者の周辺でも、可処分所得の少なくなった年金生活に入った60歳台半ば以降の人にも見られるようになった。ある知人は「クラウンに乗っていたけど、家内と相談して売却してカーシェアに切り替えた」と語っていた。

自動車メーカーにとって頭が痛いのは、利益率の高い高級車に乗っているユーザー層もカーシェアに流れるかもしれないことだ。誰もがマイホームを持つ、マイカーを持つといった一律的な消費の時代ではない。消費に対する価値観は多様化している。可処分所得の多寡や年齢にかかわらず、経済合理性を判断して、クルマを保有するのか、シェアするのかを選ぶ消費者は今後も増えるだろう。

サブスクリプションサービスのプラットフォーマーは、自動車メーカーや系列ディーラーの専売特許ではない。異業種からの参入も想定される。たとえば、アマゾンや楽天などの有力企業がこうしたサービスを始めることだって想定できる。クルマ販売のビジネスモデルが大きく変化する時代に突入しているのだ。

加えてEVシフトもサブスクリプションサービスの導入を加速化させるだろう。これまで大手自動車メーカーは資金力をバックに、高級車を「残価設定ローン」で販売し、所得が高くなくても高級車に乗りやすいローン商品を提供していた。たとえば、500万円の新車の3年後の残価を250万円と予め設定し、走行距離などの諸条件をクリアすれば、3年後に250万円で引き取ることを約束しているような売り方が残価設定ローンだ。

メーカーは、ローン債権を転売し、引き取った中古車を引き取り価格よりも高く売ることで利益を出した。低所得者が高級車を買いやすくしているという点では、かつての「サブプライムローン」と構造は似ている。

ところが、EVの普及によって、こうした売り方も難しくなることが予想される。「残価設定ローン」が成り立つためには、メーカーがあらかじめ決めた「残価」が価値として残っていることが大前提となる。ガソリン車やディーゼル車であれば、過去の利用状況などから勘案して残存価値を想定できたが、EVは残存価値に「個体差」があるため、それがしづらい。街の中古車販売店で、外見はそう悪くはないEVの中古車が10万円で投げ売りされているのを見る機会があるが、EVの残存価値は概して低いからだ。

その理由は簡単だ。スマートフォンは、頻繁に充電する人、電池残量がなくなってから充電する人、さまざまな使い方によって電池の寿命が大きく違ってくる。実はEVの電池もそれと同様で、EVの残存価値は使い方によって「個体差」が出てきてしまうため、一律では決められないのだ。

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