日経平均株価が円高でなくても急落したワケ 下落の要因は「為替条項」ではなかった?

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市場で懸念しているのは、日米協定に為替条項が入れば、日銀の金融政策に影響が及ぶのではないかという点だ。金融緩和策が事実上の円安誘導だとして攻撃の対象となれば、ドル/円に円高圧力がかかる可能性がある。

15日にも発表されるとみられている米為替報告書。前回4月、名目レートでみた円相場が「過去10年と比較すると、2013年上期から歴史的な平均値に比べて割安である」と初めて指摘した。日銀が量的・質的金融緩和政策(QQE)を導入したのは13年4月であり、市場では日銀緩和策が念頭にあるのではないかとの思惑が根強い。

しかし、この点についても今回のムニューシン発言で、市場の懸念が強まったわけではない。日銀の緩和政策が「出口」が近づくと解釈されれば、多少なりとも日本国債の金利が上昇したり、銀行株が下げ渋ってもいいはずだが、15日の10年国債利回りはわずかながらも低下。銀行株<.IBNKS.T>は業種別下落率で5番目に大きかった。

量的緩和策(QE)は米連邦準備理事会(FRB)も行っていた。いまは「正常化」に向けて利上げを続けており、それがドル高/円安の原動力になっている。「ドル高は米側の要因だ。名目上にせよデフレ脱却という国内を目的にしている日銀の金融緩和策に文句をつけるのは難しい」(国内銀行)との見方は多い。

銀行株は、ほとんど動かない日本の金利より、米国の金利に連動している。米長期金利の上昇一服が、日本の銀行株を押し下げた可能性もあるが、いずれにせよ「状況証拠」を見る限りでは、市場が本気で日銀の出口を懸念し始めている動きは乏しい。

「業績拡大シナリオ」も後退

では、大して円高が進んでいないにもかかわらず、なぜ15日の日本株は大きく下げたのか。

消費税実施の可能性が高まったこともあるが、1つは為替条項を入れない代わりに、日本側が大幅な譲歩を迫られるとの懸念が強まったためだ。「トランプ流の強硬姿勢の下、日銀緩和や円安の是正の代わりに自動車関税や輸出自主規制、輸入拡大を迫られかねない」(国内銀行)という。

15日の東京株式市場で自動車を含む輸送用機器<.ITEQP.T>の下落率は、3番目に大きかった。

「業績拡大シナリオ」も後退した。「米国の為替条項要求で、市場の円高懸念が強まったわけではない。しかし、1ドル120円といった過度な円安期待も後退し、日本企業の業績拡大期待もしぼんでしまった」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ投資ストラテジスト、藤戸則弘氏は指摘する。

さらに前週から続いている世界同時株安が大きな背景として存在している。15日の市場で主要株価が下落したのは日本だけではない。上海総合指数<.SSEC>などアジア株全体が下げている。「9月にグローバルで株を買ったヘッジファンドなど短期筋の売り戻しが続いている」(国内証券)という。

好景気を材料に株価が上がれば、利上げ予想が強まり、金利は上昇、株価は下落する──。

これ自体は健全な金融市場の動きだが、歴史的にみても株価の下落は急激になりやすい。グローバル金融緩和相場の転換点を迎えているだけに、日本株の調整も時間がかかるかもしれない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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