孫正義が「未来のトヨタ」に見た確かな金脈 元社長室長が読み解く孫社長の「脳内」

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今や、世界に40億台あるスマホの100%にアームのチップが使われていると孫氏はいう。さらに、ゲーム、家電、工場のセンサーなど、累計1000億のチップが出荷されているとのことだ。

ロックフェラーが時代を見越し、価値が認められていないときに価値をいち早く見出して、石油埋蔵地を押さえたように孫氏はAI革命のエッジであるチップを提供するアームを押さえたのだ。孫氏は「オセロの四角の一つを押さえたようなもの」なのである。

孫氏の「脳内」にはロックフェラーの経営戦略が刻み込まれている。

トヨタが「フォード」に見える

ロックフェラーを孫氏が尊敬するもう一つの理由は、パラダイムシフトの波に乗って大きく成長したことにある。農業国から工業国へというパラダイムシフトの中でロックフェラーのスタンダード石油は成長する。アメリカでさらに、石油を流通させるために、最初はトラック輸送を押さえ、次に鉄道を押さえ、スタンダード石油は、アメリカを築いた最大の企業のひとつとなった。

孫氏もロックフェラーに倣い、IT革命、スマホ革命という第三次産業革命のパラダイムシフトで成長し、今度は第四次産業革命のIoT、AI革命というパラダイムシフトで、再び大きく飛躍しようとしている。

1908年、ロックフェラー69歳の時、ヘンリー・フォードは自動車の大量生産に成功する。フォードによる推進された自動車革命とともに、ガソリンの需要が急激に高まり、ロックフェラーグループは飛躍的な成長軌道に乗ってゆく。

現在はスマホが最大の情報端末だが、今後、自動車が最大の情報端末になる。

「サムスンの創業家と話をしていたら、今はサムスンの半導体の最大顧客はスマホで30%。自動車は1%でしかない。しかし、今後、10年、20年と見るとモビリティ、自動車用半導体が最大となり、40%になるだろうと話していた」

孫氏が記者会見で紹介した逸話である。アームは12年後の2030年に、チップが1兆個、地球上のありとあらゆるところにばら撒かれるという「Project Trillium」を進めている。モビリティサービスの会社になると宣言しているトヨタの自動車は大量のチップを使用するであろう。孫氏にはトヨタがロックフェラー財閥を成長させたフォードのような存在に見えているに違いない。

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