孫正義が「未来のトヨタ」に見た確かな金脈 元社長室長が読み解く孫社長の「脳内」

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2010年12月のことである。ジャーナリストの田原総一朗氏と孫氏の対談があった。テーマは「なぜ、日本からiPhoneが生まれないのか」。田原氏らしく「例えばトヨタはどうすればいい?」とずばりと聞かれた。

「自動車メーカーはやっぱりアップルのように世界最強の、たとえば電気自動車なんかの設計をするしかない。エコカーのようにインテリジェンスを持たせたものを設計して、組み立ては海外でやればいい」

「モノづくり」を否定するような発言に私はヒヤヒヤしたことを思い出す。さらに孫氏が続ける。

「アップルのスティーブ・ジョブスのように自ら言い出して『俺の社員に賃金の低い組み立てなんかさせない。俺の社員には一人当たりの賃金をもっとダーンと上げて、一人ひとりに喜んでもらうやり甲斐のある、エキサイティングな開発だ、デザインだ。それを本業として捉えるんだ』となると、明るい自動車メーカーになれるわけですよ」と答えている。

それから8年。「トヨタを『自動車をつくる会社』から『モビリティ(乗り物)・カンパニー』にモデルチェンジすることを決断した」と豊田章男氏は宣言した。まさに孫氏の発言の方向に大きく舵を切ったのである。

「私はあまり人のプレゼンに感心することはありません。スティーブ・ジョブズのプレゼンには感心しましたが。しかし、豊田社長のプレゼンには感心しました。ストーリーがしっかりしており、情念があり、心からおっしゃっている」

孫氏がスティーブ・ジョブズと伍すというのは最大最強の賛辞である。

モビリティAI時代のプラットフォームを押さえよ

21世紀、アメリカはGAFAを中心に着々と成長した。世界の時価総額のベスト5はGAFA+マイクロソフトが常連になっている。リーマンショック前の2007年にはそれでもトヨタがベスト10に入っていたが、前述したように今は42位である。

日本の21世紀は衰退の世紀であった。その大いなる原因は、ソフトウェアのプラットフォームをシリコンバレーに押さえられたからである。

特に、スマホ革命の時代はシリコンバレーへの集中を加速させた。iPhoneを使って買い物をしたり、グーグルマップで検索したりするとビッグデータとして情報が収集され、お金がシリコンバレーに吸い取られる。たとえば、スマホゲームをダウンロードしてプレイすると、課金の30%がアップルやグーグルに決済手数料として自動的に支払われるのである。 売上高1000億円のゲーム会社なら300億円の決済手数料となる。まるで、植民地である。

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