巨大災害相次ぐJR貨物、値上げで打開なるか 環境問題やドライバー不足の「好機」生かせず

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広大な大地をひっきりなしに貨物列車が行き交う北海道は、「道外と比較して貨物列車の走行割合が高い」(北海道運輸交通審議会)。

最大震度7を観測した9月6日の北海道胆振東部地震では、山陽本線同様、長期の貨物運休が懸念されたが、9月21日までにすべての不通区間の運転が再開された。JR貨物によれば、素早い復旧は「JR北海道(北海道旅客鉄道)による懸命な復旧作業」のおかげ。2社が共闘して北海道の物流を支えているという構図だ。

JR北海道の線路を走るJR貨物の車両。2社は線路使用料をめぐって、つばぜり合いを続けている(記者撮影)

しかし、その裏では両者の間で熾烈なバトルが展開されている。自ら線路を持たないJR貨物は、JR旅客6社に線路使用料を支払う。料金は複雑な計算によって算出されるが、簡単に言うと「貨物輸送がなければその発生が回避できる経費」が基準となる。ただし、料金水準については「JR貨物が支払う線路使用料は実態より割安」と、多くの鉄道関係者が口をそろえる。

JR北海道によれば、「当社が負担する線路修繕費は年間およそ200億円に上るが、JR貨物から受け取る線路使用料は20億円程度」(広報部)という。北海道では貨物列車の走行割合が高いことに加え、重い貨物列車が線路に与えるダメージは旅客列車よりもはるかに大きい。全体の1割程度の負担では割に合わないというのだ。さらには旅客列車が使わない貨物用設備の維持費用までJR北海道が負担しており、「さすがに『これは払ってほしい』と申し上げている」と、同社の島田修社長は2017年の取材時に発言している。

JR貨物は一歩も引かず

しかし、JR貨物に一歩も引く様子はない。「会社発足時のルールを途中で変えられたら、利益が蜃気楼のように消えてしまう。(JR各社が発足した)30年前の枠組みはきちんと守ってほしい」と、田村修二会長はやはり2017年の取材時に反論している(取材当時は社長)。6822億円の経営安定基金が与えられたJR北海道に対し、JR貨物は1000億円近い旧国鉄の長期債務を背負わされての発足。その代わりに線路使用料が割安に設定されたと考えれば、JR貨物の言い分には一理ある。

陸運各社はドライバー不足や環境負荷低減を理由に、貨物列車による輸送を増やしている(撮影:尾形文繁)

CO2削減といった環境問題、トラック運転手の不足――。時代は鉄道貨物にとって追い風だ。これを好機ととらえたJR貨物は、今年3月、基本運賃の1割値上げを10月に行うと発表した。値上げによって得られた収入は質の高い労働力の安定的な確保や新技術の導入、設備投資の促進などに充当したいとしている。

2017年度のJR貨物の鉄道事業は5期連続の増収、連結経常利益も過去最高を達成。今期は値上げを原資とした労働力確保や設備投資によってサービス力を高め、経営基盤を強固にする計画だった。その先には株式上場も視野にある。

しかし、繰り返される巨大災害がこのシナリオに影を落とす。基幹路線が不通になった際に通常輸送力を十分カバーできるだけのバックアップ体制をどう構築するか。線路使用料をめぐる議論も頭の痛い問題だ。JR貨物にとっては厳しい舵取りが続く。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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