500億円超の大赤字 再建の道筋なき「石原銀行」の迷走
石原慎太郎都知事のトップダウンで2年前に開業した新銀行東京。「貸し渋りに悩む中小企業の資金繰り支援」という触れ込みだったが、理想と現実は大きく食い違っていた……。(『週刊東洋経済』6月16日号より)
東京都が約1000億円を出資する新銀行東京が6月1日、2007年3月期決算を発表した。最終赤字は実に547億円。「こんなに不良債権処理の金額が多いとは……」。都庁の担当者や都議会関係者は異口同音に驚く。これで2期連続の大赤字となり、05年4月の開業からわずか2年にして繰越損失の額は849億円に膨らんだ。
ソフトウエアの減損処理など特別損失144億円もあったが、赤字の最大の原因は、合計313億円に上る不良債権処理費用だ。トヨタ自動車出身の仁司泰正代表執行役は、「もともと悪いもの(融資案件)は流さないのがトヨタ流だが、悪いものがどんどん行ってしまった。(審査の)モデルを信頼して何でも流すのは本来的にはおかしい。もっと私が止めるべきだった」と反省する。
同行の最大の特徴は、スコアリングモデルを使った中小企業向けの無担保・第三者保証不要の融資。ほかの既存金融機関から融資を受けることのできない中小企業を資金面から支援する、とのうたい文句だった。しかし、知名度不足もあり、開業から半年間は業績を上げるため、無理な貸し出しを積み上げたようだ。それが前期になって、不良債権処理費用として大きく噴出した。
民間信用調査機関によると、ICタグシステム開発会社(06年10月に民事再生申し立て、新銀行東京の融資額は3億円)や、プリント基板販売会社(07年3月民事再生申し立て、同融資額1.3億円)など、同行の融資先では実際に経営破綻がいくつか散見される。
巨額の不良債権処理費用もさることながら、本業の収益力不足はより深刻だ。一般貸倒引当金繰入前の業務純益は、06年3月期に引き続き85億円の赤字。これは、事業の柱である貸し出しがすべて正常債権としても、収益を上げられないことを意味する。システムなどの経費が資産規模に比べて過大であるうえ、貸し出しの残高が想定ほど伸びず、コストを賄うだけの金利収入を得ることができないのだ。中小企業向け貸出残高は07年度の目標6020億円に対し、06年度の実績は2010億円。不良債権をおそれるあまり、低金利覚悟で優良な貸出先にシフトしたため、貸出金利回りは前々期と比べて2.25ポイントも低下した。
07年度までに100万口座を目指した預金口座数も、06年度実績は9.2万口座と計画から大きく乖離している。同行は昨年5月から開業1周年の特別金利キャンペーンを展開、1年物定期預金で年利0.5%などとする高利の預金を集めた。貸し出しの原資となる資金量を確保するためだが、これが資金調達コストを押し上げている。
不良債権比率は06年3月期の0.9%から6.4%へ急上昇。自己資本比率は20.6%とまだ高水準のように見えるが、不良債権処理のバッファーとなる自己資本の余裕は300億円余りしか残されていない。仮にこの先も前期並みの損失が出れば、一気に債務超過に転落する。石原都知事は「経営破綻する心配はない」と強弁するが、同行はまさに「進むも地獄、引くも地獄」(石原知事)の崖っぷちだ。