パレスチナの支援打ち切りは弊害しかない アメリカは子どもたちの未来を潰す気か

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アメリカに次ぐ額を拠出してきた欧州連合(EU)は、当面の予算規模を維持するために支援金を前倒しで拠出。デンマークやフィンランド、オランダ、ニュージーランドなどもこれに追随した。3番目に大きな金額を負担してきたドイツは拠出金積み増しを表明。イギリスも今年度拠出金を増額している。

だが、世界の難民はシリア内戦などを背景に過去最悪の6000万人に到達。人道支援の必要性は急速に拡大している。ただでさえ人道支援予算が逼迫する中で、アメリカの穴を埋めるのは並大抵のことではない。予算不足によってUNRWAの活動が縮小すれば、ヨルダン川西岸地区やガザ地区、シリア、レバノン、ヨルダンの情勢は一段と不安定化しかねない。

子どもがUNRWAの学校から路上に放り出されることになれば、テロの危険性も高まる。過激派組織にとって格好のリクルート対象になるからだ。児童婚、児童労働、児童人身売買も増えかねない。

トランプ政権の言い分は?

トランプ政権の言い分は、いかにも牽強付会だ。たとえば、アメリカ以外の国はもっと多額の拠出金をもっと以前から負担すべきだったと主張している。だが、仮にそうだったとしても、いきなり支援金を全額打ち切る理由とはならない。

また、トランプ政権はUNRWAがパレスチナ難民の数にげたを履かせていると非難する。だが、同機関の難民認定は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが採用する国際慣行にのっとったものだ。500万人の登録難民を数十万人に減らせ、と言い出すトランプ政権のほうがどうかしている。

そもそもアメリカを含む国連加盟国は、UNRWAの発足以来、その活動を高く評価してきた。国連加盟国の圧倒的大多数は、同機関が果たしている独自の役割を認め、しっかりとした資金援助を続けていくべきだと考えている。

UNRWAは中東の安定に不可欠だ。同機関による人道支援が縮小すれば、ただでさえ恵まれないパレスチナの子どもたちに、さらなる犠牲を強いることになる。

ゴードン・ブラウン 国際連合グローバル教育担当特使

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Gordon Brown

元英首相。1997~2007年ブレア労働党政権で財務相。07年に党首となり10年まで首相を務めた。危機下の教育のための国連基金「教育を後回しにはできない(ECW)」上級運営グループ議長。

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