ベネズエラの社会主義革命が自壊する中、2015年にヨーロッパを襲ったのと同様の難民危機が南米を覆いつつある。ベネズエラからはコロンビアだけで約100万人、別の周辺国にはさらに推定200万人が難民としてなだれ込んでいる。本稿執筆時点では国連による難民キャンプは存在せず、宗教組織や非政府団体などによって、わずかながらの人道支援が行われているだけだ。飢えは深刻で、病気も猛威を振るっている。
周辺国で最も支援に熱心なのがコロンビアだ。病院にたどり着いた難民には医療を施し、同国の巨大な「非公式経済」(社会保険など国の制度に従わずに事業を行っている農家や零細企業)も難民を労働力として吸収している。
難民を受け入れたコロンビアも大変に
コロンビア人がベネズエラ人に同情的なのは、自らも似たような経験をしているからだ。左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」による内戦と麻薬密売団によるテロで、コロンビアでもかつて大量の難民が発生した。このとき、何十万人という難民を受け入れたのがベネズエラだった。また、ベネズエラがまだ石油で潤っていた頃には、数百万ものコロンビア人がベネズエラで仕事を見つけた。社会主義政権によって石油産業がめちゃくちゃにされる前の話だ。
しかし、ベネズエラ難民が津波のように押し寄せたことで、コロンビアは大問題を抱えることになった。コロンビアの1人当たりGDP(国内総生産)は6000ドルとアメリカの10分の1にすぎず、受け入れ余力に限界があるためだ。
治安維持や救急医療といった直接的な費用だけではない。難民として安い労働力が押し寄せたことで、非公式経済の賃金が強烈な下落圧力にさらされるようになったのだ。難民の第一波にはシェフやリムジン運転手といった熟練労働者が多かったが、最近は未熟練労働者が大半だ。コロンビア政府は国内貧困層の境遇改善に力を入れているが、安価な労働力の流入でハードルは一段と高くなった。
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