ユニクロ「無縫製ニット」を支える黒子の正体 島精機はアパレル業界の構造を変えられるか
ファーストリテイリングと島精機が提携を発表したのは2016年10月のこと。島精機のホールガーメント製品の生産子会社であるイノベーションファクトリーにファーストリテイリングが49%出資し、資本参加した。
ファーストリテイリングは「ニット生産技術を活用した新しい生産システムの確立」や「将来的には、画期的なニット商品の生産を実現化するマザー工場」にすると表明。すでに2016年、2017年には一部の店舗でホールガーメント技術によるニット衣料が販売されていた。
販売が好調とみた7月、ファーストリテイリングは島精機との「戦略的パートナーシップを強化し、中長期的で包括的なニット商品の開発と技術革新への取り組みを加速」するとし、アジア一円での海外量産体制拡大と生産効率向上、オンデマンド量産システム開発などの目標を表明。そして9月から大々的に3Dニットの販売に踏み切った。
ユニクロのようなファブレス型の衣料製造小売り業態(SPA)は原則として自社工場を持たず、衣料の生産は製造委託先の企業が担っている。製造委託先企業に島精機のホールガーメント機の導入を促し、消費者は直接目にすることのないホールガーメント技術について大々的に“激賞”するのは異例のことだ。
着想は約50年前、高速化に20年かかった
こうしてユニクロから本格販売された3Dニットだが、それを生み出す島精機のホールガーメント技術は実は着想されてからすでに約半世紀が経過している。
島精機の創業者で、「日本のエジソン」と称される1人である島正博・現会長は、1964年に全自動手袋編み機(2017年に日本機械学会「機械遺産」認定)を開発した。島会長は「手袋をもっと大きく、指の数を減らして編めば、セーターの形ができる。手首の部分を長くして折り返せばタートルネックセーターの形だ。そうした構想が湧いてきた」と語る。
そして、1995年に1本の編み糸とプログラムさえセットすれば、デザインどおりのニット服を1着丸ごと立体的に編み上げることができる、完全無縫製のホールガーメント初号機の開発に成功。同年にイタリア・ミラノで開催された世界最大の国際繊維機械展(ITMA)に出展すると「金賞をいただき『東洋のマジック』と呼ばれた」(島会長)。
ただ、機械は高価なうえ編み上げる時間もかかり、「1着当たりの編み立てコストが高かったため、20年間累計で8500台、年間で平均400台しか世に出せなかった」(島会長)と、販売面では不本意なものだった。
こうした問題を一気に解決したのが、2015年のホールガーメント20周年を飾るため開発された「マッハ2XS」だ。
これまでのホールガーメント機では難しかった、島精機の独自技術である可動式シンカー装置の搭載に成功。
可動式シンカー装置は、編んでいるところを常に上から押し下げることで、編み立てをうまく安定させる機能を持った装置だ。これを搭載したことで「ドレス風ニットを含め、生産性が3倍から4倍になった」(島会長)。
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